第9話 好きな店には人気になってもらいたいけど混雑はしてほしくないジレンマがある

 相も変わらず、俺とネルミ以外の客は見当たらないバル爺とココナの店。


 日頃から贔屓にしているだけに、この店が潰れないか少しだけ心配な今日この頃だ。


 そんなわけで、半ば俺達の指定席になりつつある喫茶店の一角にて。


 鑑定してもらったアイテムを自分達で使うのか売却するのかを決めるため、マーカスのおっさんから受け取った鑑定結果の用紙を見ようと封筒を開けたところ。


 鑑定結果が書かれた用紙とその保証書とは別に、もう一枚の紙きれが同封されている事に気付いた。


― ジル坊へ、お前さんに一つ頼みたい事がある ―


 そんな書き出しとともに始まったその文書には、物探し……いや、この場合人探しになるのだろうか…? とにかく、あるモノを探して来てくれといった内容の事が書かれていた。


 おっさんの知り合いである機装技師が最近作成した魔導人形ゴーレムの”ようなモノ”をダンガロール山脈にて紛失したらしい。


(いや、ゴーレムのようなモノってなんだよおっさん…)


 魔導人形、通称ゴーレムは魔法を込め泥や錬成粘土を練り上げ作られた人型の人形だ。


 ゴーレムは基本的に製作者が作成時に組み込んだ行動のルーティンに従って行動し、簡単な内容であれば後から指示を追加する事も可能な魔法使いの良き相棒として知られている。


 マーカスのおっさんがわざわざゴーレムのようなモノと書いたという事は、俺達がよく知るゴーレムではないのだろう。


 というより、おっさんの知り合いである機装技師には俺も心当たりがあるのであの人が作ったモノだとすると恐らく魔法的な力は込められていない。


 そもそも機装技師というのは、金属や硝子を用いて純粋な技術のみで魔導具にも負けず劣らない機装具を作り出すプロだ。


 魔力を動力として可動する魔導具とは違い、物理的な力や火や水といった自然界にもあるエネルギーを動力とする機装具は魔法が使えない種族や人々に重宝され、また対魔法術式に対抗しうる武器として軍隊や騎士団にも採用されている。


「あ、あの…ジルさん。 このネックレス…ライリーちゃんが欲しいって言ってるんですけど…その、えっと…」


「ん? ああ、それならライリーにあげちゃっていいぞ。 ライリーも今回のダンジョン攻略で活躍した仲間なんだし、報酬を要求する権利は当然あるってわけだ」


「だって…えへへ…よかったねライリーちゃん。 あとでリュックに入れてあげるからね」


 事情を知らない人が見れば、リュックサックに話しかけているヤバイ子な状況のネルミを眺めつつ俺は最近ハマっているゴズ豆茶をズズっと一啜りしてネックレスを売却用の袋から取り出す。


 人の目があるところではネルミが背負っているリュックサックの中で生活している妖精のライリー。


 彼女…? が欲しがっていたネックレスには鑑定結果を見る限り何かの力が付与されているわけではなかったのだが、単純に見た目が好みだったのだろうか…?


(俺からは何の音も声も聞こえないし、ライリーはネルミにテレパシー的な感じで話しかけてんのかな…)


 ダンジョン内では時折り羽音とは別の…幼い女の子のような声が聞こえていた気がしたのだが…単純に俺の気のせいかもしれない。


(まあ、そもそも俺は妖精憑きじゃねぇし…ライリーの声は聞こえねーか)


 俺としてはパーティーの仲間の一人だと思っているライリーと話が出来ないのは少し寂しい気もするが、こればかりは仕方がないと割り切るしかないだろう。






 ◇◆◇





「ダンガロール山脈、ですか…」


「ああ。 マーカスのおっさんの話では、仕事のついでに探せたら助かるって事だから急ぎではないみたいなんだが…」


「えと…。 たしかダンガロールだと…私たちが昨日攻略した大鼠の穴倉以外にも、あと幾つかリトルダンジョンがありました…よね? 」


「ん? そーだな。 今ギルドが把握してる数でいうと確か残り四つだったか」


「な、なら。 闇雲に探すよりリトルダンジョンを一つずつ回っていって、その時に周囲を捜索する…というのはどうでしょう…か」


「お、なるほど…! 確かにいいアイデアかもな、それ。 一か月以内にダンガロールの全リトルダンジョンを攻略出来ればギルドから地域制覇ボーナスも受け取れるし、一石二鳥だ」


「はい…! が、がんばってゴーレムもどき…さん? を見つけてあげましょー…! 」


「お、おー! 頑張ろうぜ」


 突然立ち上がり「が、がんばりましょー…! 」と拳を突き上げたネルミの行動に一瞬たじろぎながらも、俺もそれに続き拳を突き上げる。


(ネルミって、意外と感情の起伏が激しいタイプ…なのか? )

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