第7話 しょーもないギャグで笑ってくれる奴は大抵いい奴
受付を後にした俺はテーブル席で荷物番をしていたネルミの元へと急いで戻る。
「すまねぇ、待たせたな」
「い、いえ…。 大丈夫、です」
テーブルの上に積まれた布袋、これらは全てダンジョン内で梱包してきた戦利品たちだ。
今日この後の予定としては、ギルド公認の鑑定屋に立ち寄り入手したアイテムを調べた後報酬をネルミと分割してお開きといったところだろう。
「さてと、んじゃここに長居しててもしかたねーしそろそろ――
「おーい!! 兄者ー!! 」
「あにじゃー!! 」
「…………げ、」
布袋を肩に担ぎ、そろそろ休憩場を後にしようかとネルミに声を掛けた――その時。
俺の事を「兄者」などと呼ぶ二つの声が背後から聞こえてきた。
「おおぅ、兄者! 兄者ではないか!! 」
「あにじゃではないかー!! 」
額に二本の角を生やした屈強な男と、一本角を生やした少女がこちらに向かってブンブンと手を振っている。
「オイ、誰が兄者だ。 誰が」
「ガハハ、まあそうつれない事を言うな兄者よ」
「そーだそーだ! あにじゃよー」
「えっと…」
状況が掴めず、困惑した様子で俺の方をチラチラと見るネルミに突然絡んできたこの”鬼人族の兄妹”について軽く紹介する。
「あーすまん、ネルミ。 急にで驚いたと思うが、コイツらは一応俺の知り合いでさ……このゴツい方が兄貴の
「おおぅ、そうだった! お嬢さんとははじめましてになるな。 改めて、ワシは童羅じゃ。 ジル殿には昔、とても世話になってな。 それ以来ワシはジル殿の舎弟ってわけじゃ」
「うがー! アタイはガキんちょじゃないぞー!! 」
「…で、この騒がしい娘っ子がワシの愚妹の紅羽じゃ。 お嬢さんが兄者の知り合いとなりゃあ今後ワシらと関わる事もあると思うが、その時は妹共々よろしく頼む」
「あ、えっと…。 た、たのむー」
「は、はい! こちらこそ…。 わ、私はネルミ、です。 よろしく…です」
いくつかツッコミたくなるポイントはあったが、今更訂正したところでこの兄妹は俺を兄者と呼ぶのをやめないだろう。
この北地とは風土も習慣も異なる東国の出である童羅たち兄妹。
彼らとの出会いはちょうど一年程前。
ダンジョンを一人で先行していたレオがトラップに引っ掛かりダンジョンの外へ強制転移させられてしまったために、俺が慌てて外を駆けずり回り行方不明になったレオを捜索していた最中に出くわしたのだ。
冒険者稼業にはつきものの不運、予想外の強敵の出現。
当時Cランク帯だった童羅と紅羽は、あきらかに格上な強さの地竜と会敵するという不運に見舞われ……かなり危険な状況まで追い込まれていた。
そんな現場に出くわしてしまっては、流石に見捨てる事も出来ず……今にして思えばまだBランクに上がりたてだった俺一人が戦いに加わったところで地竜に勝つなど無謀な話だったのだが、その時は勝手に体が動いて助太刀に入ってしまったのだ。
正直、そこから先の地竜との戦いはよく覚えていない。
だが、今こうして俺達が無事に生き延びているという事は地竜との戦闘で”アレ”が起きたのだろう。
俺の中に眠る異質な力…その目覚め。
力の実態は自分自身でも分からない事の方が多いが、少なくとも。
童羅と紅羽、この兄妹は俺が”純粋な人族ではない”事を知る数少ない人物だ。
◇◆◇
「ふぅ……す、凄い人たち、でした…」
「ハハ、少し緊張したか? 」
童羅と紅羽はこのあと同郷の出である者達と結成したパーティー”東国無双”の定例会議を兼ねた食事会があるらしく。
俺への挨拶とネルミへの自己紹介も程々に、冒険者達の胃袋を掴んで離さない西通りの名店。
安い、うまい、多いで評判の”デリーナおばちゃんの台所”を目指し、一足先に冒険者ギルドを後にしていた。
「え、ええ。 鬼人族という方たちの存在は知っていましたが…実際に目にするのははじめて、だったので…」
(まあ、妹はともかく…童羅のほうは外見の威圧感が凄いからな…)
「あー、童羅はあの外見のせいで怖がられることも多いけどさ。 根は優しいし、ああ見えて笑い上戸でちょっとした事でも笑ってくれるし、案外付き合いやすい奴なんだぜ」
「…………」
「……ん、どうした? 」
見た目で誤解されやすい童羅について軽くフォローしてると、ネルミからの視線を感じた。
「い、いえ……ただ、その…。 ジルさんは、友達思いなんだな…と、思っていた…です」
「へ? 俺が…? いや…ないない、それはないって。 友達思い~なんてイイ奴みてぇじゃん。 俺はお節介焼きなだけ」
「じ、ジルさんはいい人ですよ…!! 」
「うぉ!? きゅ、急な大声はマジ心臓に悪いって…」
「あっ…ご、ごめんなさい」
(……なんつーか、ちょっと調子狂うよな)
今まで俺のまわりにネルミのようなタイプの女はあまりいなかった。
レオとの腐れ縁もあってかどうにも俺の周囲には腹に一物抱えてそうな子たちが多く、内心では何を考えてるのか分かったもんじゃないし…俺もそれを踏まえた上で付き合ってきた。
その点、ネルミはずいぶんと分かりやすい。
分かりやすい…のだが、なんというか。
純粋過ぎて、此方が反応に困る時がある。
(まあ、つっても……)
俺はネルミのそんなところも案外…気に入っているわけなんだが。
「とりあえず、アイテムを鑑定して報酬を分けたら今日は解散だな」
「は、はい…! 」
「それで、さ。 その…今日はどうだった? 」
「今日…? 」
「あー。 なんつーか、その。 俺と二人で組んでみて、これからやってけそうな感じだったか? 」
正直、ここでネルミに「やっぱりジルさんとは無理そうです…」などと言われたら、俺は正規の冒険者として獅子の眼を離脱している手前かなり困るのだが…やりにくいと感じている相手に無理強いはしたくないのでここで一旦、ネルミの気持ちを確認しておかなくてはならない。
正規冒険者としてパーティーに加入していた場合、経緯がどうであれパーティーを自分の意思で離脱した者にはペナルティーが科せられ、既存のパーティーには一か月の間参加する事ができない。
つまり、今のネルミと俺のように新規でパーティーを結成しない限り少なくとも一月の間はソロでやっていく事になるのだ。
(ま、そーなったらそーなったで割り切ってやっていくしかねーか)
「俺に遠慮せずに本当の事を言っていいぞ。 ネルミにはペナルティーが無いんだし、俺とのパーティーはまだ仮申請期間内だ。 解散するなら今の――
「か、解散なんてイヤです! 私はジルさんとずっと一緒に居ます…!! 」
「お、おう…! そうか…なら良かった」
(ん…? ず、ずっと…? )
「解散なんて…そ、そんな悲しいこと言わないで下さい…。 私、ジルさんと…一緒に、やっていくって…そう…う、うう…」
「え、ちょ!? た、タイム! タイムタイム! 泣くのはストップだって! 」
(あ~もう、こうなったらしかたねぇか…。 予定変更、鑑定は明日だ)
今朝のデジャブ。
人の往来がある通りにて、いきなり泣き出してしまったネルミの手を取り俺は午前中も訪れた喫茶店。
バル爺とココナの店へと足を運ぶ。
ディナーのメニューも取り扱ってるこの喫茶店にて、俺は期せずしてネルミと夕食を共にすることになった。
こうして、俺とネルミ。
二人からはじまったパーティー”不死鳥の双翼”。
その記念すべき結成第一夜は、かしきり状態の喫茶店…その店内にて更けていくのだった。
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