第5話 冒険者なら一度は物欲とドロップの関係性について考えているはずだ

 あれから何度か出くわしたガジルマウスの群れからドロップしたナイフが一つ、道中開けた二つの宝箱から出てきた円盾とネックレスが一つづつ。


 これが俺達の今のところの戦果だ。


 鑑定してみるまではそれぞれのアイテムの価値は分からないが、ダンジョン突入から一時間程度の成果にしては上々だろう。


 特に、魔物が消失する際に時折り残されるドロップアイテムと呼ばれるアイテムが手に入ったのはラッキーだった。


 魔物からドロップするアイテムには特殊な効力が付与されている事が多く、またユニークアイテムと呼ばれる特定の魔物からしか手に入らない独自のアイテムも存在する。


 ユニークアイテムは武具だけではなく小道具の類も存在するが、とにかくそのどれもが強力な能力や便利な機能を兼ね備えており売却すれば大金が稼げて自分で使えば一気に戦力増大が狙える当たりも当たり、大当たりなアイテムなのだ。


 とはいえ、そもそも普通のアイテムですら魔物を倒してもなかなかドロップしないため今回のように短時間で一つでもゲット出来たのはかなりの幸運だ。


(っと、階段があるな…。 つーと、ここが地図に載ってた休息域セーフゾーンか)


「ネルミ、群れとの連戦が続いたが少し休憩するか? 」


 ダンジョンを攻略する際にギルドから渡される地図、ダンジョンマップを鞄から取り出し一度現在地点を確認しておく。


 魔物が出現せず、なおかつ魔物が侵入してこないエリア…休息域、セーフゾーン。


 どういう仕組みで魔物が入ってこれないのかは未だに解き明かされてない謎だが、とにかく安全に休憩出来るポイントまで辿り着いたのでネルミに声を掛け休憩するかどうかの確認をとる。


「あっ、い、いえ。 このくらいならまだ、大丈夫です…! 」


「ハハ、そうか! そいつは頼もしいぜ」


 二か月程とはいえネルミとは共に活動していたので彼女のだいたいの体力は把握出来ているが、パーティーで動くうえで仲間の体調に気を配る事は欠かせない。


 体力的にはまだ休憩は必要がないだろうと分かっていても、要所要所で必ず一度は仲間全員に確認を取る事を習慣化しておけば体調が優れない者がいた時に早めに対処ができる。


 特に、ネルミのように自分の意思をあまり主張してこないメンバーがいる際はこちらから一言パスを送ってあげた方が相手も口にしやすいだろう。


 獅子の眼時代、パーティーリーダーのレオは独断で行動しがちで仲間への配慮や気配りなど欠片もなかったので自然と副リーダーである俺が仲間の体調や些細な変化に気を配らなければいけなかった。


 少し面倒でもあったがパーティーをしっかりと機能させるために必要なスキルが身についたと考えればあの時の苦労も報われるだろう。






 ◇◆◇






「このゲートをくぐったらボス部屋だ。 ネルミ、準備はいいか」


「はい…! 」


 大鼠の穴倉は二階層ながらリトルダンジョンの中でも短めのダンジョンなので、入り組んだ第一階層を突破し地下へと降りたらあとは真っ直ぐな通路を通りそのままボス部屋にぶち当たる構造になっている。


(しっかし、結局今回は変異種に遭遇しなかったな…)


 馴染みの小道具屋で仕入れた毒消し草は二束に分けて各自が腰に下げた布袋にしまってある。


 常連客の俺が行けば割り引いてもらえるからと、ネルミのぶんも勝手に俺が買ってきたが結果としては正解だった。


 ネルミは俺からタダで毒消し草を貰うのに悪いですと渋っていたが、それこそネルミに自腹で毒消し草を買わせていたら毒を使ってくる魔物が現れなかった今の状況じゃ少し気マズかっただろう。


 ここ暫くネルミは報酬の取り分が少ないサポーターとして生活していた。


 サポーターとして獅子の眼に所属していたのはネルミの意思ではなく、ネルミの加入に乗り気ではなかったレオが出した条件のせいだ。


 そもそもの取り決めでは、お試し期間として三か月サポーターとして共に仕事をした後正式に冒険者としての参加を認めるといった話だったが…結局この約束は果たされないままネルミはパーティーを追放されてしまった。


 大きなミスをしたわけでもないのにネルミを追い出した事から考えれば、レオの奴は最初から冒険者としてネルミを参加させる気はなかったのかもしれない。


 獅子の眼に俺が誘わなければ、ネルミもソロの冒険者としてあんなごたごたには巻き込まれなかったわけで。


 まあ、なんとなく…俺はネルミに対してちょっとばかし負い目のようなものを感じていた。


 食事や消耗品を奢る事をネルミが望んでいるとは思わないが、少なくともサポーターだった期間減らされていた報酬分くらいは俺が勝手に手助けしてあげたいと思っている。


 言ってしまえば俺の自己満足なのだが、あまり迷惑を掛ける事をしているわけではないので大目に見てもらいたい。






 魔力が渦巻き、向こう側の様子を窺うことが出来ないゲートに足を踏み入れる。


 通路とボス部屋を繋ぐこの門はボスがボス部屋からダンジョン内に流出する事も防いでいるが、その反面俺達冒険者が中の様子を探る事も防がれている。


 つまり、ボスやボス部屋の様子は一度自らゲートに足を踏み入れるまでは確認する事が出来ないのだ。


「…ハッ! なんだよ、最後に特賞引いてんじゃねーか俺達! 」


「ね、捻じれた角が二本…! ジルさん…あ、あれって…! 」


「ああ、このダンジョンのボス。 グルグホーン・マウスダンサー…その、変異種だ」

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