第27話 噂
「……うしっ。この耳当てなら、耳はなんとか隠せるな」
「サングラスもよし! アテネちゃん。見えづらくない?」
「う、ううん……大丈夫。ちゃんと見えるよ……」
「……なら、これにて人間への変装完了だね」
「よっしゃ! それじゃあいざ、アテネのシティデビューといこうじゃねぇか!」
と、いうわけで、ジーク、エマ、アテネの3人は人間の街へとやってきた。それも、国の中心である王都に。
「……スゴい……人がこんなにたくさん……」
「……ねぇジーク。なんでわざわざ王都にしたの? もっと人が少ない街から始めても……」
「
「それは、そうだけど……」
万が一の事態への不安を隠せないエマは、さっきからずっとアテネの両肩を掴んで離せずにいる。そんな彼女の手から不安を感じ取ったアテネは、エマの手に自分の手をそっと当てながら言葉を発する。
「えっと……エマ、私は心配してないから大丈夫。いざとなったら、2人が守ってくれるって信じてるし!」
アテネの笑顔は、ずっと不安そうな顔をしていたエマを笑顔にしたい一心での笑顔だった。エマもそれが分からないほど鈍感ではなく、彼女の健気な思いを汲み取って笑顔を返す。
「アテネちゃん……もう、可愛いなぁ。言われなくても、私達があなたを守るよ」
「……っし。じゃあ行くか、ヘルメス商店へ」
ヘルメスのいるヘルメス商店の本部は、驚くほど小さい建物だ。入り口から入るとそこには食品、雑貨、衣服などといった文字の書かれたドアが壁一面に広がっており、そこをくぐればヘルメスの魔法で繋げられた広大な商業空間へと向かうことが出来る。
「ドモドモ、お久しぶりですお三方。ヘルメス商店へようこそ。本日は何をお求めで?」
「食品」
「……簡潔ですねぇ。シンプルなのは好きですけど私としてはもう少しお喋り……」
「はいはい。心配しなくても相手はしてやるよ。……じゃ、エマ。買い物とアテネは任せたぞ」
「うん、任せといて。……じゃ、行こうか、アテネちゃん」
「う、うん……」
エマとアテネはヘルメスの魔法で作られた扉をくぐり、扉の向こうにある食料品店へと向かった。こうしてドア以外は何もない殺風景な空間に残されたジークとヘルメスは、隅の方に隠されたドアをくぐってヘルメスの自宅兼事務所へと入るのであった。
「ま、予想はしていましたが大変みたいですね、そっちは」
「まったくだぜ。まさかこんなに、魔族を憎む魔術師は多いのかとうちひしがれているよ。……確かに魔王が生きていた頃の魔族は、人間にとって危険でしかなかった。でも、魔王亡き今、魔族と人間を敵対させるような悪趣味な奴はいないんだし……なんとか、魔族はもう人間の敵じゃないとみんなに伝えたい」
「……そこで、私を使って宣伝したいと?」
「ああ、金ならいくらでも払う。とにかく、アテネを人間社会の一員にしてやるには……俺達少数派の意見を通すのではなく、少数派の意見を多数派に変えるしかない。そのためには、世論が必要だ」
「……なるほど。ま、私とあなたは利害が一致してますし、お金さえ貰えるなら協力……したいところですけど、少々困った噂があるのですよ」
「……噂?」
「ええ。今日はそれをあなたに売り付けるつもりだったのですが……ま、サービスで宣伝代と情報代のお値段をセットにしてあげましょう」
「お前らの言うサービスとかセット金額とかは本当に得なのか疑わしいが……まあいいや、話してくれ」
「お値段はともかく、情報は確かなのでご安心を。……どうにも、魔族の連中が
「……なんだと? 魔族が?」
「ええ。お陰で皆さん非常にピリピリしております。んで……これはまだ不確定な情報ですが、魔族は既に人間を襲っているとか」
「……んなっ……そんな馬鹿な、だって魔王はもう……」
「落ち着いて下さいジークさん。まだ不確定な情報ですよ。……ま、人間にやられたとは思えない大ケガをしている人間がいるのは事実なんですがね」
「……なっ……それは……ダニーの持ってきた情報と、繋がるかもしれねぇ……」
「……ダニーさんが?」
「ああ。俺達も気になることがあって、ダニーに魔界で調べものさせてるんだが……アイツがつい先日、送ってきた情報がこれだ」
ジークはポケットの中から手紙を取り出すと、それをヘルメスの前の机に放り投げた。
「……一部の魔族の活動が、活発になっている……まるで、何かを探しているようだ……ほう……」
「……魔族が、アテネを探してこっちまで来たのかもしれねぇ。もしソイツらが人間への敵意を持っているなら……殺さざるを得ねぇ……!」
勇者ですが、魔王の娘を拾いました 竹腰美濃 @bcad0210
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