【その男、「ウソツキ」】⑪

 京谷要が『道化師』との賭けを終えた一年後。六月十日。

 要は悪趣味あくしゅみ置物おきものがひしめく一室にて、自分のこめかみに銃口を押し当てていた。

「まあ見ててよ。僕は本当に嘘つきで、誰も信じられないような勝ち方をするからさ」

 銃を持つ要の姿にジジとノイズが走る。

 右手のノイズが激しく揺れ動き、要の指はすぐに動いた。

 だが、カチ、と撃鉄が起き上がるだけで弾は出なかった。シリンダー内に入っている五発の弾丸は、一発も射出されなかったのである。

「はは。やったね。6分の5の確率に勝っちゃった。ラッキーだなあ」

 言いながら、要は押し当てていた銃口をこめかみから離す。同時に、ジジ、ジ……と姿を覆うノイズががれていく。

「……ほお」

 今度はそれを、対戦相手のエドワードは見逃みのがさなかった。

「貴様……二つ持ちか?」

 顎を撫でながらエドワードが問う。能力を複数持っているのかという意味だ。

「さあ? どうだろうね」

 リボルバー銃のシリンダーを開け、弾を一発込めながら要は返す。エドワードは顎を撫でながら、一人でぶつぶつと推理を続けている。

「言うなれば『人の認識に作用さようする』ものか? いや、それならば『虚言者』の名には合わんな。……となると一つは『嘘』に関連していると推理するのが妥当だとうか。そしてもう一つは『そう見せる』ものか?

 どうだね? 答えを聞きたいものだが」

 エドワードは、カチリとシリンダーをはめた要に目を向ける。要は何も答えない。するとエドワードが言った。

沈黙ちんもく肯定こうていだ、若造わかぞう。口は撃ち抜いていないだろう? それとも急に言葉を忘れてしまったのか?」

「……そうだねえ」

 要は銃をもてあそんでいた手を止めると、言った。

「……まいったね。バレちゃった。

 さすが、二十年も死人しにんをやってる人はかんするどいね。去年のピエロの人も気づかなかったのに。ここまで気づかれるのは、これで二人目だ」

「ほお」

 とエドワードは声を漏らす。驚愕きょうがくでも感嘆かんたんでも、動揺どうようでもなかった。まるで実験動物の新しい行動を見たような反応だった。

「そうだよ。僕は能力を二つ持ってる。そのうちの一つは、あなたの言う通り『嘘』に関係してる。これは本当に、まぎれもない真実だ」

 と言った直後、要は口を押さえ、くぐもった声で激しく咳き込んだ。右足のふとももと左腕の上腕と腹。その三か所からじわりと赤いしみが浮き上がる。

 落ち着きを取り戻した要は口から手を離し、自分の手の平を見つめる。手のしわが見えないほど、真っ赤に染まっていた。

「……は」

 と要はかすかに、力なく笑った。なぜ笑ったのかは、彼自身にも分からない。

「……やばいね、これは……」

 誰にも聞こえないほどの声で呟き、スーツの袖で口元をぬぐう。穴が開いた左腕の感覚がなかった。血を流しすぎて視界もぼやけ始めている。一瞬でも気を抜くと倒れそうだった。

 そろそろ決めないと死ぬな、と要は思う。目をそむけていた恐怖が、ひたりと後ろからせまってくるのを感じた。

 死ぬのは怖い。だからこそ、「死」から逃れられるのならばなんだってやる。

 自分の命を賭けることでも、死にかける寸前の傷を受けることになっても。

 われながら矛盾した動機どうきだと、要は心の中で苦笑くしょうする。

 その結果が、たった一年。

 たったの、一年間。

 なんとも、安い命の期間だ。

 要は自嘲じちょうするように、くく、とかすかに笑った。

「去年死んだ『道化師』も、所詮しょせんはその程度だっただけのこと。三十の死体を生み出したとて、あやつはそれしかげいがない。るかめるか庭に埋めるか。つまらぬ奴よ」

 エドワードの声で、要は現実に引き戻される。どうやら意識が落ちかけていたようだ。要は細く呼吸し、残った力で集中する。

「……それで、さ」

 と要は六発の弾丸を込めた銃をテーブルの上に滑らせる。

「早くやってよ。いくら『確率』なんて強い能力でも、これは無理なんじゃないかなあ?」

 ふふふ、とエドワードは低い声で笑う。

「これだから若造はすぐに勝負を決めようとする。全ては確率だ。すなわちあのお方の気まぐれも、ありえん奇跡も偶然も、全ては私の思いのままだ」

 エドワードは要を見つめ、パチンと指を鳴らした。同時に、要はぼやけていた視界が鮮明になったのを感じた。感覚のなかった腕もわずかだが動くようになっている。左足の血も止まり、腹に開いた傷の痛みもない。呼吸もさっきよりはだいぶらくだ。

「はは……」

 血が止まった右腕を見て、要は息を吐くように笑いを漏らした。どうやら、簡単には終わらせてくれないらしい。

「これでまだしばらくは死なないだろう。さて、これが終わったら二戦目だ」

 言いながら、エドワードは弾が六発入った銃を手に取る。

「せっかく人間を超えたのだ。命を賭けるのが日常のこの勝負、すぐに終わらせるなど実につまらん。もっと楽しめ。しなげろ。それこそが我々われわれにんくるったうたげだ」

 エドワードは心底しんそこから楽しんでいる表情で、こめかみに銃口を押し当てる。

「ふふふ。虚言きょげん確率かくりつ……これはすぐに終わらせるなどもったいないわ」

 と言ってすぐに、引き金にかけている指を動かした。

 しかし、しわだらけの指は引き金の半分で止まるだけで弾は出なかった。不発ふはつだった。

「貴様の嘘はいつ聞けるのか楽しみだ。今か? それともここへ来たときか? それとも、もうその姿は虚言にまみれておるのか?」

 エドワードはシリンダーを開け、銃を軽く振った。中に詰められていた六発の弾が吐き出され、テーブルの上を転がる。

「嘘とは人をだます一番簡単な方法だ。

 もう何十年も前になるか。『自分は真実しか言わない』と勝負を挑んできた若造がいたが……貴様はその逆だな。嘘にまみれた虚言者きょげんしゃならば、なぜそんなに弾をくらっておる。遊びにしてはいそいでいるように見えるぞ」

 エドワードは弾を一発つまみ上げると、シリンダーに装填そうてんして銃を要の方に滑らせる。

「本当に嘘を操るというのならば、この勝負で嘘ではないと証明してみせろ。貴様は嘘が大好きなのだろう?」

「……」

 要は何も答えない。黙ったままで、大きく呼吸をしているだけだ。

「ただの死人か、はたまた死人の皮をかぶった大嘘つきか。どちらでもよい。時間はたくさんあるのだからな」

「……は、」

 と、要は皮膚と筋肉を動かしただけの笑みを顔に浮かべた。それから激しく咳き込む。肺をやられた兵士のような咳だった。口からしぶきとなって血が飛び散る。

 口の周りをそでぬぐいながら、要は言う。

「……最初から、そのつもりだったのか。どうりで、あなたの考えが読めないわけだ」

 返答するように、エドワードはニヤリと口角を上げた。

「確率とはこういう使い方もあるのだよ。貴様がいかなる能力を持っていたとしても……『それがうまく作用さようする』確率を下げてしまえばよい。

 その言い方だと『相手の思考を読む』能力も持っていそうだな。いや、持っていたらとっくに『私がいつ確率をずらしているか』を読んでいるだろう。となると、それは対価か?」

 要は一つ、息を吐く。

「……そうだよ。これは、調整できない対価だ。ここまでバレちゃうのは……ちょっと予想してなかったかな」

 頭をぐしゃぐしゃ掻きながら、要はそう告白した。

「ほう。となると残るは『嘘』か。ほれ、早く使ってみろ。貴様が死ぬのも生きるのも全ては確率次第しだいだ。素直に従った方が長生きできるぞ。

 ほら、賭けをしようじゃないか。弾が出るか出ないか賭けよう」

 エドワードは杖の先で要の顔を差す。

「いいよ。乗った」

 と要はすぐに銃を持ち、シリンダーを弾いて回す。そしてそのまま、銃の先を自分のこめかみへと持っていく。

「……不便ふべんな体だよね。改めて思うけど」

 と要が言った。エドワードの眼が揺らめき、銃のシリンダーがカチ、とひとりでに回る。弾が入っている所までは二つ先だ。

「それもふくめての対価というわけだ。生きるというのはそれだけ難しいということなのだよ」

「……生きていても、あまりいい思い出はなかったよ。二回目の人生もね」

「ほう。選ぶのは自分自身だ。死ぬも生きるも自分の選択次第」

 エドワードの眼がまた揺らめく。シリンダーがカチと回り、弾が入っている箇所まではあと一つ先となった。

「……それも、確率のうちってことでしょ?」

「ああそうだ。全ては決まっている。数パーセントの確率でな」

 とエドワードは眼を揺らめかせながら言った。

 銃のシリンダーが激しく回る。要が自分のこめかみに銃口を押し当てると、シリンダーはぴたりと回転をめた。

 そこに弾丸が入っているのかは、要には分からない。全ては確率次第であり、それを操る人間にしか分からないことである。

「弾は出ないよ。だって僕は本当に……死にたくないからさ」

「言うではないか、ウソツキが。私は『出る』ほうに賭けよう」

 エドワードが、かかか、と笑う。要が、ぐっと自分のこめかみに銃口を押し付けたその刹那せつな。正面に座るエドワードに銃の先を向け、すぐに引き金を引いた。

 だが、銃から出たのは空砲の音。弾丸は一発も発射はっしゃされなかった。

「……弾は出なかった。この勝負は僕の勝ちだね」

 要が銃のシリンダーを開ける。弾が入っている所までは、あと二つ先だった。

「ふふふ。負けてしまった。こういう時の運はない」

 エドワードの声を聞きながら、要はテーブルに転がっている五発の弾丸を込めていく。

寸前すんぜんでずらしたでしょう?」

 返答はない。要は四発目、五発目を込めていく。

「僕が指を動かす直前、確率をずらしたでしょ、って聞いてるんだよ。急に言葉を忘れちゃったのかな?」

 要は開けたシリンダーを閉じる。銃の中には、再び六発の弾丸が込められた。

「……ふ。ふ、ふふふ、ふふふふ」

 とエドワードは肩を揺らし、一層低い声で笑い始めた。しばらく笑うと、今度は称賛しょうさんするように手を鳴らし始める。

「見事だよ。そのとおりだ」

 適当な拍手をやめ、エドワードは言った。

「今のはきもえたぞ。まさか、こちらに向けてくるとはな」

「自分に向けて撃てとは、言われてないからね」

 要は六発の弾が入った銃を、テーブルの上に放り投げる。

「そっちが言い始めた賭けは、まだ終わってないでしょ? この勝負が終わるときは、どっちかが死ぬまでだ。ほら、取りなよ」

「ふふふふ。ただのうさぎだと思っていたが、なかなかやるではないか。最初からそうしておけば、死にかけることもなかっただろうな」

 エドワードは言いながら、銃を手に取る。

「はは……そうだね。こんなに長引ながびくとも思ってなかったし、対価も能力もほとんどバレちゃうなんて思ってなかったからさ。あなたにすぐに勝てると思った僕が悪いね」

 要は大きく呼吸し、エドワードとその後ろに立つ男たちに目を向ける。

「……嘘を、証明しろって言ったね。いいよ。誰も逃げられない嘘をついてあげよう。よく聞いててね」

 要の黒い目が、『確率』をしっかりとらえる。

「でもさ、『嘘がいつから嘘なのか』ってことに気がつかないと……ずっと騙されたままなんだよ」

 要は、言った。残りの力をしぼって出した声ではなく、勝負が始まる前の、まだ一発もくらっていなかった状態の声で。

「もう終わりにしようか。自分の頭を撃ち抜いた方が勝ち……そうだったでしょ?」

「ああ。そうだな」

 エドワードはこめかみに銃口を押し当てる。

「私の勝ちだ。さらばだ。嘘にまみれた虚言者よ」

 エドワードの指が動く。次の瞬間、部屋に乾いた銃声が響き渡った。彼の反対側のこめかみから、突き抜けた弾丸と赤黒い脳みそが飛び散る。

 彼の手から銃が滑り落ち、持っていた杖も床に転がる。座っていたエドワードはゆっくりと前のめりに倒れこみ、テーブルに頭を乗せるようにして絶命した。

「……」

 要は長い息を吐き出し、ソファの背もたれに背中を預ける。感じる痛みの限界を通り越し、全身がしびれていた。能力を持っている本人が死んだことで、けられた『確率』の効果が切れていた。

「お前の負けだな、挑戦者」

 と残った一人が言った。それに気づいた要は目を向ける。

「ボス、こいつどうします? このままカジノの景品にしますか?」

 と、もう一人がエドワードの死体に顔を近づけて聞いている。

「負けたらお前の持ってる島とそこのメイド、金と情報も全部やるって言ったよな。さっさと出せよ」

 最初に声を出した一人が要に歩み寄って言う。

「ああ……」

 と要は、向かいのソファ近くにある死体と、テーブルの上に頭を乗せた死体を順番に見ていく。

「それは……僕が負けたら、でしょ。よく見なよ。死んだのはそっち。生きてるのはこっち。つまり僕が勝ったってこと」

 要はテーブルの上にあるエドワードの死体と自分を交互に指さす。

「はあ? 何言ってやがる。出血で頭までやられちまったのか?」

 男たちは声を上げて笑い始めた。明らかに要の言葉を信じていない。

「もう今日は使いたくないから、自分で気づいてね」

 と要は言う。男たちは笑い続けている。

「……うるさいなあ。もう一回よく見てみなよ。誰が死んでるのか、ね」

 要がそう言った直後。

「う、うわあ……!」

 とエドワードの死体に顔を近づけていた一人が声を上げた。目と口を見開き、驚愕していた。

「い、いつの間に……」

 と、その男はがくがくと膝を震えさせる。それを見たもう一人がふところに手を突っ込む。

「……それはだめだよ。僕にそれは、やめといたほうがいい」

 額に手を当てた要が、ぼそりと言った。二人の男は構わず銃を抜こうとする。

「あと四秒」

 頭痛に顔をしかめながら、要が言う。

「了解です」

 メイドの少女……風見りんがふわりとスカートをひるがえして、要がいるところまで大きく跳んだ。

 きっかり四秒後。りんが要の前に着地したと同時、向けられた二つの拳銃から二発の弾丸が射出しゃしゅつされる。二つの弾はまっすぐ飛び、りんの頭と心臓に向かっていく。外れようもない。

 弾丸があと数センチにせまる。その瞬間、ありえないことが起きた。

 まっすぐ飛んでいた二つの弾は、りんをけるように大きくれ、後ろの壁へと命中したのである。

「な、なんだこいつは⁉」

「こいつもばけものかよ!」

「う、撃て! 撃ちまくれ!」

 二人は叫び、顔に恐怖を浮かばせたまま銃を乱射する。その全ての弾がりんをけ、ありえない軌道きどうえがいては壁にめり込んでいく。

 狙いは外れているわけでも、彼らが下手糞へたくそなわけでもない。まっすぐに飛んで行った全ての弾が、めちゃくちゃな軌道を描いて彼女かられていくのだ。

 弾切れの音が鳴るころには、要とりんがいる後ろの壁は穴だらけになっていた。

「……終わりでしょうか。敵の前で弾を切らせるなど、殺してくれと言っているようなものですよ」

 と言うりんの右手が、ひとりでに動き始める。

 伸びた右手は太もものホルスターからぶりの拳銃を抜くと、そのままの流れで敵を狙い、一切の躊躇ためらいなく引き金を二回引いた。二つの小さなから薬莢やっきょうが銃から排出はいしゅつされ、床に転がる。

 ホルスターに銃をおさめた時にはもう終わっている。その一連いちれんの動きはまるで、精密せいみつにプログラムされた機械のようだった。

 どさりと、二つの死体が床に倒れる。二人とも、見事に眉間みけんを一発で貫かれている。即死そくしだった。彼らは何をされたのかも分からなかっただろう。

 死体から出たまりが、カーペットを赤く染めていく。

 こうして部屋には三人の死体と、みずからのこめかみを撃ち抜いた老人の死体がならべられた。

「時間をかけすぎですよ。あやうくひますぎて立ったまま寝るところでした」

 と言いながら、りんは要に手を差し伸べる。

「……だってさ、あんなにバレるとは、思わなかったんだもん。いてて……」

 差し出された手を掴んで要は立ち上がる。着ている服は真っ赤に染まり、よく見ると顔も少し青白い。

「強かったね、確率の人……。もう少し時間がかかってたら……負けてた、かな……」

「あなたが弱いだけなのでは?」

 りんは要の脇に入り、体を支えながら部屋の出入り口へと向かう。

「うわ、ひどいなあ……。僕だって頑張ってるんだよ……いろいろさあ……」

 そう返す要の姿がジ、ジジ……とぶれ始める。

「訓練の時に、指が折れただけで大泣きして部屋にこもった人の台詞せりふとは思えませんが」

「それはだって……りんちゃんがやりすぎるから……」

「本気でやってくれとの命令を受けましたので。わざと手加減した方がよろしかったですか? それでも、あなたが私に勝てるとは思えませんが」

「あーもう。分かった分かった。この話終わり」

 要が強引に話を終わらせる。りんが部屋の扉を開け、二人は廊下に出る。その背後で、要の座っていたソファと床に飛び散った要の血痕けっこん、二人の靴の跡にジジ、とノイズが走り始める。

「まずは治してもらわなきゃ……。アカリ君、ポーカーやるって言ってたけどまだやってるのかな……」

「どうでしょうかね。下着一枚にでもなっていれば最高に面白いのですが」

「……あのさあ、なんでそんなに仲悪いの? もっと仲良くすれば?」

「あっちが突っかかってくるので私は悪くありません」

「ああそう……」

 二人の後ろ……部屋の中のソファとテーブル、その周りの床にジジと一瞬激しいノイズがかかる。

 一秒後にノイズが剥がれた時には、要とりんなど最初からいなかったかのように、二人の痕跡こんせきは綺麗さっぱり消え去っていた。

 部屋の中にあるのは、四人の死体と破壊された壁、床に転がる二つの小さな空薬莢と、弾が五発入ったリボルバー銃。それだけである。

「よろしいですか? 閉めますよ」

「うん。もう調整したから大丈夫」

 要がそう言うと、りんが部屋の扉をぱたんと閉めた。

 二人は廊下の突き当たりにあった部屋に背を向け、来た道を戻って行く。

 要を支えて歩きながら、りんが言った。

「ところで私をしなにしましたか? あなたのやることには極力きょくりょく口を出さないようにしていましたが、今回ばかりは黙っていられません。はらっています」

「えっと……それは本当にごめん……。相談すればよかったね」

「そういう問題ではないのですが。負けていたらどうするおつもりでしたか?」

「……勝ったからいいじゃん」

「あと一歩で負けていましたけれどね」

「……」

 要は黙り込み、ばつが悪そうな顔でりんから目を逸らした。

「とにかく、相談もなしに私を賭け品にしたこと。かなりむかついたのでいやがらせをします。覚悟しておいてください」

「それはちょっと、やめてほしいかなあ……」

 要はそう言うと、顔を前に向ける。

 二人が歩く先には、珍しい髪色をした少年がアタッシュケースから大量のかねをこぼれさせていた。

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