【嘘を吐く正直者】③
目的地である捜査室が前方に見えてきた。すりガラス越しに何人かの背中が見える。午後の仕事に取り掛かっている捜査官たちだろう。
と、部屋の扉が開いて中から誰かが出てきた。
「お」
出てきたのは室長の照良だった。小夜の体が一気に緊張する。
「おつかれー」
「お、お疲れ様です室長……」
「うん。顔が引きつってる気がするけど、またなんかやらかしたんじゃないだろうなあ」
「そ、それは……」
小夜は照良から視線を外しながら言う。いいタイミングと言えばいいタイミングだ。あの遺書のことを先に報告するチャンスである。
しかし、報告したら頭に拳が飛んでくるかもしれない。言うのも恐ろしいが、黙っているともっと
小夜はごくりと
「その、室長……」
「うん。どうした?」
「本当にすみません。要君の秘密が書いてある重要な証拠を、ただの紙くずにしてしまいました。本当にすみません!」
言い終わると小夜は頭を下げるのではなく、ばっと反射的に両手で頭を守った。人間が
頭を守って目をぎゅっと
「あ、そう。それだけ?」
「え?」
思わず目を開け、頭の上に置いていた両手をのける。
「やらかしたの、それだけ?」
「あ、そ、そうですね。緊急の報告はそれだけです」
小夜は少し
「カナメくん、ちょっと
と、照良は小夜の隣に立つ要をちらりと見て言った。
「やることがあるなら、それが終わるまで待つけど」
「いえ、彼との用事はもう終わりましたので」
「そうか。じゃ、カナメくんちょっといいかなあ」
照良は捜査室の隣にある休憩所へと歩いていく。
「“じゃあまたあとでね、小夜ちゃん。終わったら連絡する”――から――さ」
ザザ、というノイズを挟んで彼の声が切り替わる。照良について行く要の背中を、小夜はしばらく見つめていた。
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