【その男、「ウソツキ」】②
小夜が『自称嘘つき』の答えを探し始めたのとほぼ同時刻。
「さて、いよいよ始まるよ。どっちが勝つだろうね」
と言ったのは、『情報屋』と呼ばれている東條である。東條は右手をこめかみに当て、静かに目を閉じている。
書斎には東條の他にもう一人いた。
ソファに座っているのは、
だがそれらよりも一番目立つのは、少年の
耳の下あたりで
そんな少年は何をするでもなく、ソファの背もたれに体を
「あれだけヒントをあげたんだ。僕としては、小夜ちゃんに勝ってほしいところだけどね」
と東條はこめかみから手をのけ、ゆっくりと目を開ける。
「アカリ君はどっちに賭ける?」
アカリと呼ばれた少年は、黙ったままで東條に中指を立てた。東條はやれやれ、とでもいう
「どうやらあの言葉を言わないといけないらしいね。前みたいに『スカートを履いてかなめ君とデートする』という
と東條が少年に目を向ける。少年は大きく舌打ちすると、ズボンのポケットから何かを取り出して車椅子に座っている東條の膝の上に投げた。
東條はそれを手に取って見る。一万円札の
「十万円か。思い切ったね。それで、どっちに賭けるのかな?」
と東條はクリップで留められた束をテーブルに置きながら聞く。
「てめえが賭けるのと逆だ」
とても会話をするとは思えない
「ということは、アカリ君は『勝者も敗者もいる』ということかな。面白いね」
しかし東條は少年の口調を注意しようとはしない。対応が慣れていた。
「僕は『勝者も敗者もいない』と賭けよう。勝負が始まる前にどちらかを決めてしまうのは、少しもったいない気がするからね」
と言って東條はかすかに笑った。その笑みは、問題の答えを知っている教師のような笑みだった。
そんな東條を見ながら、少年は言った。
「……全部分かってるくせに。ほんと性格悪いな、クソジジイ」
東條はにこりと微笑む。
「何を言っているのかな。これはただの
東條は優しい笑みを浮かべたままで言う。その顔には、口にした言葉と同じ感情が浮かんでいた。
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