第4話:ひと筋の希望

「どこ行こうか?」

聞いたミクのお腹がグーっと鳴って、

「あ…、まずは何か、買う?」

恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべ、ミクはポケットから財布を取り出した。

悩みに悩んだ末に買ったのは、パン1個だった。

大きい丸いパン、1個。

これから先、どうなるかわからない。

そんな不安が、空腹に勝った。

パンを買って、人気のない公園へ行った。

朝が来て、深夜徘徊の心配は終わったけれど、今度は別の不安がわいてきたのだ。

もし、親が、警察に行方不明とかの届け出を出してたらどうする?

ミクがそんなふうに聞いてきて、ナツも急に不安になった。

さっきまで、あんなに晴れ晴れとした気分だったのに…

また、気持ちが濁って、なんとなく手先が不安でしびれる感じがする。

警察に行方不明届けが出されてたら、警察とかパトカーとか来て、大騒動になったりするんだろうか?

軽々しく家出という選択をした自分を、無意識のうちに恨みながら、ミクと半分したパンにかじりつく。

パン好きの母親のせいで、毎朝出てくるパンに嫌気がさしていたはずだった。

白ご飯好きのナツにとって、口の中の水分を全部吸い取られるパンの感じが、どうしても好きになれなかったのだ。

それなのに、いま食べているパンは、まるでこの世のものとは思えるないほどおいしい。

明日からも、こんなパン1個しか買えないような日が続くのだろうか?

そう考えると、一瞬、涙が出そうになった。

「そうだっっ!もうちょっとしたらさ、誰かに連絡取れるかも!」

ナツの不安を振り払うように、ミクが妙に明るい声で言う。

「え…?でも、今日って、学校がある日じゃないの…?」

「うん。けど、多分、大丈夫!ほら、私の行ってる学校ってアホの学校だから、サボってる子とかもいると思うし。そしたら、ご飯ぐらいはおごってもらえるかも?」

親指を立てて、ミクがニヤっと笑う。

「ほんと?」

「うん、ほんと!しかも、1人暮らしの子とかもいるから、もしかしたら泊まらせてもらえるかも!」

「…ほんと?」

ナツの顔も、ついニヤける。

「うん!」

満面の笑みを浮かべるミクに、

「それにしても、自分が行っている学校をアホって…」

苦笑いでナツが返す。

「いいの、いいの。だって、アホ校って有名じゃん!ま、グレーの制服の子たちは、小さい頃からの一貫教育の持ち上がりで、校舎も違う金持ちボンボンの優秀な子たちばっかだけどね。ワインレッドの制服は、アホばっかよ(笑)」

「…(笑)」

「まっ、アホはやさしいヤツも多いから、期待しよっ!今日も商店街で寝たくはないでしょ?」

「確かに」

「じゃ、アホ万歳ってことで。とりあえず、もう少しだけ時間潰そ」

「うんっ!」

急に、明日からの明るい未来が見えた気がした。

「じゃあ、先に祝いってことで、もうちょっと食べ物買わない?」

そう提案したミクのお腹がグーっと鳴って、

「まじ…?嬉しい。実は、私もお腹空いてた。買うなら、おにぎりがいいなぁ…」

ナツは、無意識のうちにワガママを言っていた。

「ワガママだなぁ、おにぎりは1個で100円以上するから高いんだよっ(笑)」

ミクはツッコミを入れたが、ミクは優しかった。

2人合わせてのなけなしのお金の中から、梅と昆布のおにぎりを買い、ミクはパンを買って時を待つ。

今日、泊まれるとこがあればいいのになぁ…

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