第2話:商店街の片隅で2泊3日

「寒くなるとは言ってたけど、まさか雪が降るとはね」

自転車のハンドルを握りながら、ミクがため息交じりに空を見上げた。

ファーストフード店を離れたものの、行くあてもないから、ミクのペダルを漕ぐ足はゆっくりとしていて重い。

未成年が夜にウロウロしていると、警察に「深夜徘徊」として捕まり、家に連れ戻される。

だから、自然と表通りではなく、外灯も少ない裏路地を彷徨う。

「うん。寒いね…」

吐く息が白く、そのうち暗い闇の中に吸い込まれていった。

何もせずに自転車の後ろに乗っているだけというのは申し訳なかったが、まだ中3で、いままで親に従ってきたナツには行くあてを示せるはずもない。

家には夕方帰る予定だったから、手袋もなければ、羽織っているのは厚手のパーカーのみ。

夜の寒さは、思った以上にカラダの温度を奪っていく。

「どうする…?」

言葉を発したのは同時だった。

「あ、家に帰るかどうするか、ってことじゃないよ!」

すかさずミクに言われ、

「わ、わかってるよ。絶対、家になんか帰らないし!」

ナツも追いかけるように言う。

言いながら、いままで母親にされたことを振り返って奥歯を噛みしめた。

「忘れ物をした」「宿題ができてない」そう言いながら、髪の毛を引っ張って引きずり回され、トイレに駆け込めばドアを壊す勢いでドアを叩いて蹴りまくる。

「もういいだろう?」となだめる父親に土下座させ、「あんたは仕事だっかりでいいよな」と鼻で嘲笑う。

きちんとしたくてもできないジレンマと両親のいさかい、そして母親の…いまでいう虐待行為…

ずっと毎日、居心地が悪かった。

2階の自分の部屋で寝ていても聞こえる自分の悪口と、母親の怒鳴り声、そして父親とのケンカ。

「とりあえず寒いしさ、どっか、あったかいとこ、ないかな?」

ナツがつぶやくと、

「とりあえず、駅前行ってみる?あそこなら、まだ明るいかも」

振り返って答えたミクの表情もどこか冴えない様子で、家のこと、親のことを思い出していたのかな?とナツは悟った。

もう…、絶対に帰りたくない!

ミクの自転車をこぐ足は急に早くなり、駅前に着いたのはあっという間だった。

…でも、田舎の駅前はもうすでに暗く、人もまばらで活気もない。

終電も終わっていた。

「はぁ…駅もこんなに暗いんだ…」

溜め息をつくミクに、

「ミクって、夜遊びとか家出とか、いっぱい経験あるのかと思ってた」

思わず、ナツの心の声が漏れる。

「ま、ナミにいろいろ教えてもらったって感じで。そんな言うほどは…」

急にしどろもどろになるミクに、なんとなく自分と同じニオイを感じながら、

「ねぇ、あそこの商店街はどうかな?」

ナツが提案する。

「ええっ?あそこの商店街なんて、死んでるじゃん?もう、真っ暗だよ?昼間でも空き店舗だらけなのに」

「だからいいんだって」

「え?ナツ?」

「あそこの商店街って確か、2階とかあったよね?やってない店を探せば、朝までは寝られるかも?」

「え…?ナツ…あんた、すごいこと思いつくね。中3で、しかも家出初経験とは思えないんだけど!」

「まぁ、初経験というか、前に1回だけ。そのとき、幽霊が出るっていう体育館で寝たんだけど、そのときのこと思い出して」

「何それwその話も詳しく聞きたいし、じゃあ、商店街へレッツゴーだね!」

こうして、ナツとミクは、商店街の片隅で2泊3日過ごすことになるのだった。

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