虐待アソートメント

夏川夏実

第1話:家出

家出をしたのは、雪の降る寒い日だった。

空は、真っ黒に塗りつぶされたキャンパスに、大量の水を含んだ白い絵の具をほんの少しだけ落としたような冴えない滲んだ色だったと思う。

反面、はらはらと舞い落ちる雪は、やたらとキレイに見えた。

ついさっきまで、親の愚痴を言い合っていたファーストフード店の駐輪場は、店内とは大違いで、すぐに頬も手も赤く冷たくなってこわばった。

そのまま2人乗りしてきた自転車の運転席側に座ってハンドルを握りながら、

「マジで、もう帰る気ないの?」

ミクが聞いてきた。

「うん。帰らない。ミクは帰りたい?」

そう聞きながら、「“帰りたい”って言われたらどうしよう…」と不安が広がる。

「帰るわけないじゃん!あんな家!ナツだって、もう絶対に、家に帰りたくないんでしょ?!」

ミクに強い口調で返され、ホッとしたと同時に、「もう引き返せない」と強く思った。

ミクは高1で留年するかどうかの瀬戸際、ナツは高校受験を控えた中学3年生。

2人は、つい数週間前に友達伝いで知り合い、友達になったばかりだった。

これまでに数回遊んだ程度の2人が家出を決意したのは、親への不満内容がよく似ていたこと。

そして、「それぞれがそれぞれの家の門限を過ぎた」ことだった。

チャリンコ1台に、千円と小銭。

雪のチラつく寒い夜に、着替えも持たずに家出なんて、無謀にもほどがある。

でも、

「じゃ、行こうか」

「だね。お店だと、年齢聞かれたらヤバイしね」

2人の決意は変わらなかった。

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