第3話 モンブランは絶対においしいんだからしょうがない
ようやく体調が全快した。
黒神を度々怒らせたが、それはきっとボクの風邪が治りきってなかったせいだと思う。
今なら細心の注意を払ってコミニュケーションを取れるはず。
本日は日曜で学校は休み。
なので黒神と朝から会う約束になっている。
近所のファミレス前で待ち合わせ。
レポートの件は何にも決まっていないので仕方ない。
彼女は時間ぴったりにやって来た。
「で、アイデアを聞かせて」
コーヒーを一口飲んでから黒神は無表情で言った。
「ここは無難に目立たず。ふくろう第三中学校の有名卒業生とかでいいんじゃないか。彼らがどんな活躍をしているかまとめればそこそこの分量になりそうだし」
そう言ってからボクはほうじ茶を飲んだ。
「ダメ。狙いはいいけどヒメとヤジのコンビがすでに同じテーマで手を付けている。考え直さなくては」
眉間にシワ寄せた黒神はそう言うとサンドイッチを一口噛んだ。
「黒神の考えは何かあるのか?」
「あるにはあるけどくだらないものばかり」
「聞かせてよ。使えるのがあるかも知れないじゃないか」
ボクは頼んだ。
「じゃあ言うけど笑わないでね」
・校長室の戸棚にあったウィスキー瓶について。
・学校に備品を納める業者の闇を追う。
・ふくろう第三中学校出身の犯罪者一覧。なぜ彼らは捕まった?
・歴代校長先生の死因内訳。
・我が中学における体罰といじめの問題。
「危ないのばかりだ。笑いはしなかったけどヤバすぎる」
「わかってはいたけど、ね。できれば午前中にテーマを決めて午後には仕上げたいんだけどムリかも」
”ふう”と二人そろって溜め息を同時についた。
「ねえ、黒神は霊能力って持ってないの? 霊が視えるとか祓えるとか」
ボクは訊いた。
「急に何を訊くの? それってレポートのテーマに関係あるの?」
キレ気味に黒神が言った。
「うん、もし霊能力を持っているなら七不思議の検証とか、先生や生徒たちの守護霊格付けランキングとかできるかな、なんて」
「そんな能力、持っていても絶対に言うわけ無い。ただでさえクラスで浮いているのに」
黒神の言葉は意外だった。
「へえ、自覚はあったんだ。いや、別にボクたち男子だって黒神を避けていたわけじゃない。むしろ興味はビシバシにある。ただ近寄りがたいというか、相手にされないんじゃないか、とか。怖かっただけなんだ。悪く思わないで」
ボクは弁解した。
「実はワタシも少し反省はしているの。自分より能力が劣っている者を見るとどうしても見下してしまう悪いクセ。そういうのって隠しても伝わってしまうのは身にしみてわかったわ」
黒神は淋しそうにつぶやいた。
その憂いを含んだ表情にボクのハートはドキドキドン💗
「黒神は普通の女の子だっていうのがよくわかったよ。笑ったり怒ったり悩んだりする女の子。生きた獣や蛇なんて決して食べない女の子……」
「お黙り! ワタシの好きな食べ物はモンブランと言ったはず! 怒らせた罰としてここのゴージャスモンブランをご馳走しなさい!」
どうやら彼女をまた怒らせてしまったようだ。
しかし怒った表情も魅力的でボクのハートはドキドキドン💗
ここはおとなしく彼女に従った。
ボタンを押して店員さんを呼んだ。
「すいません。ゴージャスモンブランを一つ」
「あっ、すみません。こちらは十時三十分からでないとお出しできません。申し訳ございません」
店員さんは事務的に言うと立ち去ってしまった。
「残念だったね。今は九時ちょっと過ぎ。まだモーニングメニューの時間なんだろう。モンブランは逃げないからまた次の機会に」
僕の言葉に、
「いいえ、あきらめないわ。丁度いいじゃない。レポートについてたっぷりと話し合いましょう。十時半までねばるわよ。ああ、ワタシたち以外の他のペアはとっくに課題を完成させているのに」
と黒神は言った。
「なあ、そもそもなんで男女一組のペアになる決まりがあるんだ? この伝統はいつから? きっかけは? これを調べたらいいんじゃないかな」
何気なく僕は言った。
「あっ! 確かワタシのママはふくろう第三中出身だったのを思い出した。何か知っているかも。ゴージャスモンブランを食べたらワタシの家でママに取材をしましょう。もちろんハラゲンも一緒に来なきゃダメ。イヤとは言わせないわ」
晴れ晴れとした顔で黒神は言った。
あくまでもモンブランにこだわっている黒神は本当に普通の女の子でしかない。
こういう黒神をクラスの皆んなに知ってほしかった。
同時に感情を素直に表す彼女はボクの前だけであってほしかった。
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