第2話 デリカシーなんて男子には期待してないって言われた
初めに決めるべきは話し合いをする場所だった。
下校時間になったので学校内の教室は使えない。
図書館では声を出すわけにはいかない。
バーガーショップ、喫茶店、ファミレスはお金がもったいない。
結局は黒神の自宅にお邪魔することになった。
ボクの家でも良かったのだが、
「病み上がりの人の自宅に上がりこんだらハラゲンの親から何と思われるかわからない。ワタシに対する変な噂を立てられても困るし。それにこの時間ならワタシの家にはママもパパもいないから話に集中できるはずよ」
と彼女はおっしゃる。
「黒神に対する変な噂ならすでに山ほどあるぞ」
大して考えもせずに言ってから”しまった”と気付いた。
だがもう遅い。
「そう、後でゆっくり聞かせてちょうだいね」
笑っていたがその笑いは猛獣が獲物を目の前にした時の笑いだった。
しばらく歩いてタワーマンションの入り口を通ってエレベーターに乗って部屋の中に通された。
「さ、そこの椅子に座って。飲み物は何がいい?」
彼女はカバンを置くとキッチンに向かった。
「じゃあ、熱いほうじ茶を。薬も飲みたいし」
好物のコーヒーはまだ飲めそうもない。
やがてテーブルにほうじ茶の入った湯呑みが置かれた。
「さあ、どうぞ」
「ありがとう。じゃ遠慮なく」
ボクはズズズと音を立てて飲んだ。
「落ち着いたので本題に入るわね。レポートのテーマは我がふくろう第三中学校に関することなら何でもOK。歴史、関わった人物、エピソードなどなど。提出期限は今月末まで。なにか質問は?」
「なんでボクと黒神がペアに? もしかしてご指名とか?」
ひょっとしたらボクに気がある? な~んて。
「いいえ、きっぱりと否定するわ。あの日は生徒たちの自主性に任せてペアを組んだのだけどワタシを選ぶ男子がいなかっただけ。だから自動的に欠席していたハラゲンとペアに。本当にただそれだけ。あ、そういえばさっきワタシに関する変な噂があるって言ってたけど。その噂のせいかもしれない。さあ、洗いざらい全部喋ってもらいましょうか」
両腕を胸の前で組んで黒神は微笑んだ。
「さて、聞かない方がいい事もあるとしか。せっかくいい感じで話せているんだし。これでもデリカシーはある方なんだ」
できれば言いたくはなかった。
「男子にデリカシーなんて期待していないから大丈夫。絶対に怒らないから。言ってみて」
懇願する美少女に男子は逆らえない。
だから言った。
・見た目が日本人形のように綺麗なのは正体が魂の宿った人形なので。
・もしくは魔女か吸血鬼か雪女。大穴で
・もしくは
・なので全身が
・なので好きな食べ物は生きた獣や蛇。
・腕っぷしが強いのは化性の身であるから。
・頭が良いのは工作員としてのエリート教育を受けたから。
・デザイナーベイビーの成功例。
・親は軍事コンツェルンのトップ。
知っている限りを喋って、言い過ぎたと思った。
黒神の方を見ると案に反して彼女は全身を震わせて笑っていた。
「アハハハ、おっ、お腹が痛い。そっ、そこまでデタラメだとっ。笑うしかない、アツハハハ」
子どものように無邪気に笑う黒神を見るのは初めてだった。
ボクのハートは思わずドキドキドン。
「ハアハア、ああ可笑しかった。ワタシが強いのは合気道を習っているから。親の職業は商社マン。好きな食べ物はモンブラン。もう否定するのも馬鹿らしいくらいね」
笑いすぎた彼女の頬はうっすらと赤くなっていた。
それを見てボクのハートはさらにドキドキドン。
「学校でも今みたいに笑えば黒神への警戒心もなくなるんじゃないかな。正直、笑うと可愛かったよ。ああ、今の笑いざまをスマホで撮影して拡散すれば良かった……」
「お黙り!」
ボクの言葉は突然の怒声によってさえぎられた。
「デリカシーの無さは覚悟していたけどいくらなんでも限度があるわ! 今日はもうここを出て行って頂戴」
さっきの笑顔が今じゃ般若の表情。
どうやら彼女をまた怒らせてしまったようだ。
正直、怒りの地雷がどこにあるかわからないのでしょうがない。
これだから女子は面倒くさい。
ボクはトボトボと部屋を出た。
しかし、なんとなく彼女とボクの距離は近づいたような気がしたんだ。
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