第6話
わたしはいつも夜十時までには布団に入って目を瞑る。今夜も九時頃には眠ろうとしたのに、眠れないままもう一時間近く経った。わたしはのそのそとベットから出てリビングへ向かう。
「ねぇ、
リビングは明るくて、目がぎゅっとなる。小夜はソファに座って難しそうな顔でパソコンを睨んでいた。わたしに気づくと優しく笑った。
「珍しいね。どうしたんだろう」
隣に座ると、小夜に頭を撫でられた。わたしはもう三年生だから、最近はちょっと恥ずかしい。でも小夜の手はすごく安心する。
「夏休みで明日は予定もないし、今夜は夜更かししようよ」
そう言って小夜がいたずらっ子のような笑みを浮かべる。そうだった。わたしは昨日から夏休みなんだった。
「……プリン食べてもいい?」
わたしもすっごく悪い顔をしているはずだ。
しかし冷蔵庫にプリンはなかった。そうだ、そういえば昨日のおやつに食べたんだった。
「もうプリンの口になってるのに〜」
今わたしの身体はプリンを味わうためだけに機能を保っているのに、プリンがないなんて大ピンチだ。落ち込むわたしに救いの手が差し伸べられた。
「
「もしかしてもしかして!?」
「コンビニに行こう。着替えておいで」
夜のコンビニは初めてだった。暗くて心細い闇の世界でピカピカと光っている。わたしはプリンを、小夜はエクレアを買った。
「これ、この前るりちゃんが食べてたやつ?」
「ん、そう」
「小夜も食べたかったんだ」
「
夜の街を両手をぶらぶらさせて歩く。なんだかすごく自由な気分だ。夜風が髪と素肌を柔らかく撫でる。
小夜が持っているビニール袋は夏の砂浜の音がする。
「ねぇ、今度海に行きたいな」
「いいね。夏帆は水着持ってるの?」
「わかんない。持ってなかったら、海辺を散歩するだけでもいいな」
「僕も水着持ってないかなぁ。高校の時のはあるかもしれないけど」
「そんなのかっこわるいよ」
「そうだね、僕もそう思う」
わたしはそっと目を閉じて夢想する。ほかほかの砂浜に太陽の雫が空から溶ける。水面はクラゲみたいに揺れて、浮き輪に乗ってわたしもその一部となる。
「小夜、夏休みってすごいね」
こんなに心ときめく夏で溢れる日々。なんて素敵なんだろう。
「大人も夏休みが欲しいよ」
そう言って小夜も幸せそうに微笑んだ。
もうすぐ家に着く。帰ったらアニメを見ながらプリンを食べよう。小夜は隣でパソコンを叩きながらエクレアを食べるはずだ。
幸せな夜。楽しい夏休みが待っている。
春と風 終電 @syu-den
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