決着と手合わせのアンコール
「あの……思いっきり刺しておいてなんですけど、フーコちゃん大丈夫なんですか?」
「構へん構へん。エミナスのダメージは蓄積型やねん。例え心臓を突き刺されても、全部消えさえしなければ平気なんやで。半霊体同士の戦いやったら危なかったかもしれへんけど、これくらいなら一晩休んだら完全復活や」
「そ、そうだったんですか……良かった……」
「ほなら答え合わせといこか! サイ君はズバリ、そこにあるマコト君の自転車やろ?」
「はい。やっぱりわかりますか?」
「会った時は見当もつかんかったけど、戦っていくうちにわかった感じやな! 向かい風で相性最高かと思っとったら、自転車だけに風を切るなんて面食らったわ!」
「あはは……正直、ボクも驚きました」
「ほんのちょっとコツを教えただけやのに、まさかこんなにも強うなるなんてホンマにたまげたで! マコト君、アニミストの才能あるんとちゃうか?」
「そんなことありません。アラシさんのアドバイスと、サイのおかげですよ」
風を切ったりチェーンを放ったりと、何から何まで期待に応えてくれた相棒を見る。
最後の髪留め破壊も含めて成功するかわからない博打ばかりだったが、あまりにも上手くいきすぎて自分でも信じられないくらいだ。
「フーコちゃんは扇風機のエミナスですよね?」
「(ふるふる)」
「こらフーコ! 嘘を吐いたらあかんで!」
風を操る物となると種類は限られており、アラシさんとのやり取りにおいて幾度となく『首を横に振る』という癖も見ていたため、正体を掴むのは容易だった。
日本の家電は白か黒が大半であり、フーコちゃんのゴスロリ服も輝くような純白。薄灰色の手袋が風を放つための羽なら、外見的なイメージも何となく湧いてくる。
それなら、扇風機のエミナスの弱点とは一体何なのか。
その答えは至って簡単で、電気の供給を絶ってしまえばいい。
地面に着くほど伸びているロングポニーテールがコードならば、先端に付いているキューブ型の髪飾りはプラグを模した物……なんて、結構いい加減な推測を基にした攻撃だったが、結果を見る限り効果抜群だったことは間違いなさそうだ。
個人的には髪の毛より尻尾の方がコードのイメージに合う気がするが、ポニーテールもある意味では尻尾。そう考えると電化製品のエミナスは判断しやすいかもしれない。
「そういえばずっと気になってたんですけど、一つ聞いてもいいですか?」
「ん? 何や?」
「えっと……フーコちゃんって、男の子ですよね?」
「そらまた随分とおもろい冗談やな! フーコは見ての通り女の子やで?」
建前はそれくらいにして……と思わず言いたくなる。
確かに格好はゴスロリだし、髪型もロングポニーテールのため女の子に見えるものの、運営から教えられたルールのことを考えると異性である筈がない。
「その……エミナスは吹き込んだ人間と同じ性別になるって聞いたんですけど……」
「何やてっ? フーコ、自分男やったんかっ?」
「(ふるふる)」
「見てみいマコト君! 誰から聞いたか知らんけど、それは嘘っぱちやで!」
「そ、そうですか」
…………言ったの、運営なんだけどなあ。
とりあえず二人の今後を考えて、無闇な詮索はせず愛想笑いで返しておくことにした。
「ワイも一つ聞きたいんやけど、どうしてサイ君は喋らないんや?」
「詳しい理由はわからないんですけど、実は吹き込む時にアニマ球のロックを解除したまま放置しちゃいまして……その影響なのか、未だに一度も口を利いてくれないんです」
「そんなこともあるんか。顔も隠しとるし、フーコ以上の照れ屋さんかと思うとったわ」
ここまで無口となると、流石に照れ屋と呼べるレベルじゃないだろう。
それでもボクの指示は聞いてくれたし、戦闘面においては特に問題なさそうだ。
「しかしやっぱりエミナス同士の手合わせは最高やな! 久々に熱うなれたで!」
「こちらこそ、色々と教えていただきありがとうございます」
「ええてええて。フーコ。そろそろ時間切れやさかい、大人しゅう家で待っとるんやで」
「(ふるふる)」
「最後くらい空気読まんかーい!」
十分が経過したらしく半霊体が解除されると共に、フーコちゃんが姿を消す。
それを見たサイもまた傷を癒すためか、自転車の中へと戻っていった。
「帰ったら慰めてあげなあかんな。ああ見えて、意外と負けず嫌いやねん。こんな風に負けたのもハヤテ君と戦った時以来やし、きっと家でワンワン泣いとるで」
「アラシさんは颯以外に、どれくらいのアニミストと手合わせしてきたんですか?」
「手合わせとなると片手に収まる程度やな。アニミスト巡りの旅にでも出て色んなエミナスと友達になったり、強うなるためにフーコと特訓したり、やりたいことは山ほどあるんやけどワイも大人やさかい簡単には時間が取れへんねん。普段は回収ばっかりや」
ボク達には春休みや夏休みのように、好きなことをできる長期休暇がある。颯はこういった夢のある話を聞いて、負のアニマの回収を止めたのかもしれない。
「手合わせ中は偉そうに語っとったけど、あれも元々は全部ハヤテ君から教わったことやねん。ワイも今のマコト君みたいに、教えてもらうまでは何も知らんかったからな」
「アラシさんはいつアニミストになったんですか?」
「三月の頭や。丁度二ヶ月くらい前やな」
「二ヶ月……あの、運営から届いた最初のメールってまだ残ってたりします?」
「メールなんて滅多に届かんし、バリバリ残っとるで」
「えっと、少し見せてもらってもいいですか?」
「構へんで。ちょい待っとってや」
アラシさんは携帯を取り出すなり、少し弄った後でボクに手渡す。
『この度は第三回エミナスカップに登録ありがとうございます』
見覚えのある定型文だが、登録という単語の前に『再』の文字はない。
やはりこの辺りについては、運営に聞いておく必要がありそうだ。
「そのメールがどうかしたんか?」
「いえ、同じメールが届いてるんだなと思って……ありがとうございます。それともし良かったら、連絡先とか交換してもらえたら嬉しいんですけど」
「構へん構へん。ワイも聞こうとしてたとこや」
余計な混乱を避けるため、再登録の件は黙っておきつつ携帯を返却する。
その後で自分の携帯を取り出すが、ボタンを押しても画面は真っ暗なままだった。
「あ、あれ……? すいません。電池が切れちゃったみたいで……」
「そういうことなら、また今度にしとこか。近いうちにまた会えるやろ」
ノートに書いてもらおうとしたボクをよそに、アラシさんは勢いよく立ち上がる。
そして少しずつ紅に染まり始めた空を見上げつつ、大きく身体を伸ばした。
「ほな、そろそろお開きにしよか。フーコも扇風機だけに首を長くして待っとるさかい」
「はい。フーコちゃんにもよろしく伝えておいてください」
「次会う時には、新技を用意してリベンジやな!」
お寺の入り口まで一緒に歩いた後で、アラシさんは鼻歌交じりに去っていく。
ボクは初勝利を飾った相棒のサドルを撫でつつ、軽快にペダルを漕ぎ出すのだった。
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