運営とメールのポニーウォール
・エミナスを召喚できる距離は、媒体を中心に半径百メートル以内。また霊体として存在できる範囲は半径二キロ以内であり、それを超えた場合は強制的に媒体へ引き戻される。
・エミナスの傷は媒体に宿ることで時間経過と共に自然回復する。またエミナスが好むアニマを摂取させると回復速度は上がる。
・一日に二回、『アートルム』の命令で、存在範囲内のエミナスを瞬時に呼び出せる。呪文は声に出すだけでは命令にならず、呼び出そうとする意志と合わせることで命令となる。
・一日に二回、『ニグルム』の命令で、エミナスを十分間だけ半霊体にできる。半霊体時は霊体と異なり、半径二キロの存在範囲制限がなくなる。
・一年に一回、日付のみ書いたメールを送信することで、指定日の間はエミナスを自由に半霊体にすることができる。
・一体に一つ、エミナスは霊装と呼ばれるアニミスト専用の武器を作れる。ただしエミナスのマスター自身は扱えず、他のアニミストに譲渡することで効力を発揮する。
ここまでがエミナスに関する知識。花音ちゃんの攻撃を見て薄々予想はついていたが、持っている能力については吹き込んだ物によって多種多様らしい。
メールが秒単位で返され続ける中、今度はアニミストについて尋ねていく。
・世の中における身に覚えのない被害は、往来を漂っている負のアニマが原因。負のアニマに触れられた物はアニマを傷つけられ、様々な障害が発生する。例として品質の低下や劣化、唐突な遺失物や記憶にない破損、精神疾患や無気力な人間の増加など。
・アニミストの使命は負のアニマの回収。方法はエミナスの攻撃で弱らせてから、エミナスが所持している回収用アニマ球のスイッチを押すだけ。白から黒に変わった回収用アニマ球をエミナスに返還することで回収完了となる。
・負のアニマは自然とアニミストの元に集まってくるため、探し回る必要はない。またエミナスは個体毎に距離が異なるが、一定範囲内の負のアニマを探知できる。
・何らかの理由でマスターが活動不可能になった場合や、エミナスが消滅してしまった場合、また半霊体エミナスによる作為的な一般人への危害や大規模な公共物の破壊等が行われた場合は、アニミストの資格剥奪と共に記憶を消去される。
・負のアニマを回収した数は集計されており、期日までの上位五割が優秀なアニミストとエミナスを決める戦いであるエミナスカップの二回戦に進出できる。エミナスカップに敗退した場合も、アニミストの資格剥奪と共に記憶を消去される。
・エミナスカップの優勝賞品は、望んだ肉体の付与。
『言葉通り、優勝したエミナスやアニミストが望む肉体を提供させていただきます』
持っていたシャーペンを置くと、携帯の画面に表示された簡素な一文をジッと眺める。
肉体の付与という言葉の意味が分からず尋ねたものの、既にアニマやエミナスという存在の時点で普通じゃない訳だし、常識的には考えない方が良さそうだ。
仮にこれが整形やボディビルのように身体を変えるだけじゃなく、子供の頃の姿に戻ったり、異性や動物に変身できたり、果てには不老不死の肉体になれるという意味だとしたら、大金を払っても手に入らない魅力がある。
ただ家族や人間関係を考えれば、新たな肉体を手に入れるというのは今の人生を捨てるようなもの。つまり本来の用途はマスターよりも、霊体であるエミナスに対してだろう。
「エミナスカップ……か」
愛着あるエミナスと一緒にいたいなら、資格を剥奪されないために負のアニマを回収して勝ち進まなければならない。まるで本体価格は安くしておいて維持管理のために必要な消耗品で稼ぐという、プリンターのインク商法みたいなやり口だ。
天王寺さんが敵対するような言い方をしていた理由も納得できたが、そうなると気になるのは開始時期のズレ。少なくとも彼女は昨日や今日にメールが届いた感じではなかったが、一体どれくらい前からアニミストとして活動していたんだろうか。
「こんこんこ~ん。こんばんは~」
陽気なノックがされるなり、ドアの向こうから呑気な声が聞こえた。
慌ててノートを閉じると、返事をするよりも早くバスローブ姿の母さんが現れる。
「おっじゃまっしま~……あらら~、シン君の部屋、ちょっと散らかり過ぎじゃない?」
「後で片付けるから。で、何?」
「何はないでしょ~。夕飯、いつ食べるの~?」
「え? あ……」
時計を確認すると、いつの間にか午後十時を過ぎていた。
まさかそんな時間になっているとは思わず驚く中、母さんは感心した様子で頷く。
「随分と熱を入れて勉強してたのね~。ひょっとしてあれ? 好きな女の子が通信教育を始めて「これならボクもできる!」的な事を頼みに来たり~」
「いや、しないから」
「恋愛編じゃないなら友情編? 同じ部活に入った友達が塾に時間を取られて練習ができない中、一足先に通信教育を始めたシン君が高得点ゲットだぜ☆」
「部活入ってないし……っていうか、通信教育から離れてよ」
「建前はそれくらいにして本音は~?」
「台詞取られた!」
頑張っていた息子を見て嬉しいのか、ニコニコと満面の笑みを浮かべる母さん。これも勉強といえば勉強かもしれないが、少し後ろめたさが残る。
とりあえず今日はこれくらいにしないと、テストがまずいことになりそうだ。
「お風呂も沸いてるからね~。ちなみに温度は五十度で~す!」
「釜茹で地獄っ?」
「ど~しても温泉卵が食べたくて、つい♪」
「で、成功したの?」
「それが大失敗! 七十度くらいを維持するのがコツなんだって~」
「へー。普通に鍋で作ったら?」
「う~ん……それだと温泉卵じゃなくて、鍋卵になっちゃうのよね~」
…………もういっそ、鍋に温泉の素を入れたらいい気がする。
すっかり遅くなってしまった夕飯と風呂を済ませたボクはテスト勉強を始めたものの、色々あって疲れていたため僅か五分で睡魔に襲われギブアップ。サイが襖の中から出てくることもないまま、アニミスト生活初日は何事もなく終わるのだった。
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