【短編&完結】王国の奴隷労働力を支えていた死霊術師だけど婚約破棄のとばっちりで追い出されました!畑を耕し脱穀機を回すスケルトンは止まったけど今さら慌ててももう遅い

ダイスケ

短編 死霊術師は婚約破棄のとばっちりで追い出されました

「帰って来いと言われても、もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。

1.短編詐欺にならず、短編だけで完結する

2.個人が抜けただけで組織や国家がガタガタになる展開に説得力と整合性を持たせる

以上2点に気をつけたつもりです。感想を貰えると嬉しいです


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「アマーリエよ、たび重なるナナリー嬢への嫌がらせの数々、もう我慢の限界だ!お前との婚約を破棄し王宮より追放する!」


「そんな!殿下、それはあまりな仕打ちです!全てはそこの男爵婦人の陰謀!誤解です!」


「ええい、誤解なものか!近衛兵!アマーリエを出口まで送って差し上げろ」


「触らないでください!わたくしに手を触れることは許しません!」


 すげー・・・。これが噂に聞く婚約破棄というやつか。


 ある日、魔力不足で軽く痛む頭を押さえながら王宮に出仕すると、とんでもない場面に出くわしてしまった。


 女関係が派手と噂の第2王子が、何だか女関係で思い切り愁嘆場のトラブルを起こしていたのだ。


 あっ。振られた黒髪の女性の方が短剣を抜いた!

 王子が転んだ!


 あーあーあんなに惨めに転がっちゃって、まあ。

 股間が液体で濡れてますぜ。


 王子が泣きわめいて小便を漏らした様子に溜飲が下がったのか、あるいは醜態に100年の恋もいっぺんに冷めてしまったのか。

 懐剣を抜いた婦人は、王子の命を取ることなく去って行ってしまった。


 やれやれ。とりあえず血を見ることなく終わったか。

 めでたしめでたし。


「貴様、何を見ているか!」


 ―とはいかなかった。

 お漏らし王子が金髪を振り乱し血走った目でこちらを睨んでいる。

 八つ当たりの対象を見つけてしまったようだ。


「はっ。王宮魔術師の末席に名を連ねているシュタイナーと申します。魔術師は王宮の政治に関わってはならぬ、というのが国是でありますれば」


 仮にも王族の下問なので、殊勝に答える。

 建前としては完璧なはずだ。

 刺されれば面白いと思っていた、などという本音はローブのフードに隠しておくのが宮仕えのコツと言うものである。


「王族の命の危機に際し、貴様は意図的に手を出さなかった!死に値する!!」


 目つきがいけなかったのだろうか、王子の絶叫はやまなかった。


「国是でありますれば」


「うるさい!貴様は死罪だ!!」


 建前を繰り返したが無視された。

 振り上げた拳の下ろしどころがなくなった殿があんまり騒ぎ続けるので、周囲に使用人達や兵士が集まってきてしまった。


 結局、単なる痴話げんかが何だか大げさな話となって陛下の預かるところなり、王宮魔術師団と何だかんだ政治的取引が雲の上で行われた結果、自分は「諸般の事情で」王宮魔術師の籍を剥奪され、王国から追い出されることになった。


 どうしてそうなった・・・


 ちなみに婚約破棄は成立したらしい。

 今となってはどうでもいいことではあるが。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「まあそういうわけだ。貴様の席は我がリヒテンハイム家の筆頭魔術師であるアーノルドが受け継ぐ。安心して去るがいい」


「はあ・・・」


 王宮魔術師も魔術師ギルドも自分を守ってはくれなかった。


 元から古い血筋が取柄の貧乏貴族ということで社交に熱心でなく、王都でブイブイ言わせている大貴族から隔意を抱かれていたことでもあるし、王宮魔術師の籍を巡り追い落とす機会を狙われていたのだろう。


「それと死者契約を出せ。あとはこちらでやる」


 死者契約。それは王国の繁栄と魔術師の勢力を支える中心技術である。

 王国では死者は死なない。

 死者は契約により屍者として蘇り、いずれは骨者スケルトンとなってその骨が砕けて粉になるまで王国の発展に尽くし続けるのだ。


 無限に近い労働力と不死の軍隊。


 この2つを備えた王国は破竹の勢いで近隣諸国を統合し、大陸に覇を唱えつつある。

 つまり王国からの追放刑は、ほとんど人類社会からの追放であり間接的な死刑であるとも言える。


 仕方なくアーノルドの指示に従い、懐から死者契約の羊皮紙と指輪を出す。


 指輪や装身具を死者とセットで揃えて魔力を供給し、死者契約の羊皮紙に屍者にサインさせることで死者契約の魔術は発効するのだ。


「なんだ・・・たったの5枚か。ゴミめ」


 アーノルドの声に侮蔑が混じる。


 どれだけの数の死者と契約を交わすことができるのか。それが王国を支える魔術師の価値を測る基準であり、プライドでもある。10人としか契約できない魔術師よりも100人と契約できる魔術師は10倍価値がある。シンプルだが絶対的な目に見える基準である。


 自分はどうも生まれつき魔力量が少ないらしく、古い屍者5体と契約を結んだところで魔力不足に陥り、それ以上の契約を結べなくなってしまったのだ。


「ふん。まあ古い血筋だけが取柄の凡庸な魔術師ではこんなものだろう!これまで貴様が王宮魔術師の籍にあったこと自体が間違いだったのだ!」


 そんなわけで、新しく王宮魔術師となったアーノルドの哄笑を背に受けて、自分は王宮から去ることになった。

 だというのに、不思議と頭はこれまでにないほど軽く、足取りも羽のように軽いことを自覚する。

 よほどに王宮勤めが向いていなかったのか、あるいは王国建国以来の地位を失った事実へのショックが大きすぎて精神に異常を来したのかもしれない。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 王国追放といっても、誰かが親切に国境まで送ってくれたりはしない。


 一定期間後に王国内に滞在していることを発見されれば官吏に逮捕されて罪状が追加される。自分の場合は死刑になるだろう。


「しかし乗合馬車が来ないな」


 今は昼間を少し過ぎたところである。

 この時間なら王都を回る屍者が運航する馬車が来るはずだが。

 馬車だまりには、自分の他にも何人か馬車を待ちぼうけている。


「どうも遅れているようですよ。自分は昼前から待っていますがぜんぜん来ませんから」


「ふむ」


 屍者は時間に正確なのが取柄の一つなのだが…このままでは王国から期間内に出国できなくなってしまう。


死者招来サモン


 仕方ないので少しだけ魔力を込めて周囲の屍者を集める。

 死体があれば寄ってくるはずだ。


 すると排水溝から、うぞぞぞ、と死んだ鼠が集団になって溢れてきた。


「キャアァァッ!!」 


 周囲から悲鳴が上がり、馬車だまりの人達も逃げ出してしまった。


 気持ちはわからないでもない。

 というか、排水溝を掃除していないのか。

 最近は屍者が足りない、と聞いていたのでそのせいかもしれない。


「ほら。これで少しだけ契約してくれるかな」


「「チュー!!」」


 懐から昼御飯用にとっておいたサンドイッチからチーズのかけらを鼠の屍者の群れに振りかけると、大きな毛玉のようになってチューチューと奪い合いを繰り広げた後で鼠たちは小さな絨毯のように整列した。


「よろしい。では任せる」


 鼠の絨毯に足を載せると、彼らは自分を載せて走り出した。

 人が小走りする程度の速さだが、自分の足を動かす必要はないし、とりあえず王都の郊外に出るまで持てば良い。


 死霊魔術なのに指輪も羊皮紙も使用しないのが不思議に思われるかもしれないが、死霊魔術は結局のところ死者との契約なので、双方が納得すれば良いのである。


 指輪と契約書を使用するのは、そうした方が人間の屍者は納得しやすいからに過ぎない。

 鼠はチーズをもらう方が嬉しく、納得してくれる。

 それだけの理屈であるが、他の王宮魔術師達には理解されなかったな、と苦い笑みを浮かべる。


 相手の気持ちを思いやるような人間は屍者を操る魔術師に向いていないのだから、当然の話であるかもしれなかったが。


 そうして、自分こと、シュタイナーは人込みの中を黒い絨毯に乗り、滑るように王都を後にしようとしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 アーノルドは有頂天だった。

 何世代も前から古い血筋だけで王宮魔術師に名を連ねてきたシュタイナーをついに追い出し、リヒテンハイム家がとって変わることができたからである。


 たった5人の屍者しか使役できない能無しを追い出し、104人の屍者を操る実力を持つ自分こそが王宮魔術師に相応しいのだ!


 そのアーノルドの天にも届かんとする自負と自信は、シュタイナーから受けついだ死者契約のために1つ目の指輪をしたところで、無惨にも砕け散った。


「なっ・・・なんだっ!魔力が吸われる・・・っ!!」


 たった1つの指輪をしただけで、目の前が暗くなり頭痛が酷くなった。

 典型的な魔力不足の症状である。


「ばっ、馬鹿なっ!」


 王国でも一流のはずの魔力量を誇るアーノルドにとって、そのような事態はあってはならないことである。


「まさか・・・死者契約の指輪ではない・・・?」


 アーノルドは念のため他の4本の指輪でも試してみたが同様に極度の魔力不足による諸症状を覚えるだけであった。


「あ奴め・・・姑息な真似を・・・!!しかし、いつの間に入れ替えたのだ・・・?」


 死者契約の指輪は王宮魔術師達の立ち合いの元に本物であると判定されたものであるし、入れ替える時間などなかったはずだ。


「どんな手妻を駆使したが知らんが、シュタイナーの仕業であろう!奴を捕えねばならん!誰かある!屍鳩で先回りして王都を封鎖するのだ!」


 アーノルドは王宮づきの特別に見た目が整えられた屍者に命令を発したが、その動きは奇妙にぎこちなく、動きはノロノロとしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「困ったなあ・・・長距離馬車まで止まっているな。どうしたことなんだ?」


 王都郊外の馬車留めまでやって来たシュタイナーは困惑していた。

 王都と他の都市を結ぶ定期便の馬車が時間通りに来ないので、人の列がずらずらと伸びている。


 この分では自分が乗る頃には日が暮れてしまうかもしれない。


「まあ・・・なぜか魔力には余裕があるからいいけど・・・死者招来」


 鼠の時よりも少し多めに魔力を込めると、周囲からバサバサと羽音がして多くの死んだ鳥が飛んできた。


「ウワァアァァァ!!」


 またも悲鳴が飛び交い、周囲から人がいなくなった。


「やれやれ・・・ところで君たち、お腹が空いていないかい?」


 近くの売り子から買った塩豆をばらりと地面にまくと、死んだ数十羽とも数百羽ともしれない鳥たちが一斉に群がった。


「ではお願いがあるのだけど、この紐を銜えて飛んでくれるかな。嘴のない子は足にでも巻き付けてくれたらいいから、おや、屍鳩が多いね。どこからか逃げ出したのかな。これはありがたい」


「「ポッポー!!」」


 巨大蜘蛛の糸の束を取り出し、一羽一羽に銜えてもらう。

 そうして真ん中に座ると、即席の飛行ハンモックの完成である。


「では少しばかりご苦労だけれど、東のアレシボ山脈に向かって飛んでくれないかな。そちらであれば国境線まで近いし、山を越えて進軍は容易ではないだろうからね。豆は弾むよ」


 蜘蛛糸に魔力を通して鳥たちに指示をすると、ポッポーと喜びの声が返ってきた。

 そうして飛行ハンモックは軽やかに離陸すると、傾きかけた西日を背に東へ向けて、かなりの速度で飛行を始めたのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 シュタイナーが去って数週間後、王国は大混乱に陥っていた。


 王国の軍事と経済を支えていた屍者達が事実上、機能を停止したからである。


 屍者の停止は、高次の機能を持つ個体から始まった。


 王都や都市間を結ぶ馬車の運転は屍者に任されていたが、シュタイナーが去って直ぐに交通事故や遅延を起こすようになり、直ぐに無期限の運休に追い込まれた。


 次に王宮や金持ちの家の使用人の屍者が命令を頻繁に間違うようになり、言葉を理解する力を失った。


 屍者の能力喪失は段々と低位労働屍者にも及び、最終的には粉ひきの骨者でさえ動くことを停めた。


「いったいどうしたことなのだ!」


 王は大臣達と共に王宮魔術師を詰問している。

 王国の繁栄も力も屍者の労働と献身によって支えられているのである。

 王の焦りは当然であった。


「はっ・・・それが死者契約の特異性の因果関係によるものである、というところまでは判明しておりますが、何が切っ掛けになったかまでは」


 王宮魔術師は王と大臣達に向かい、冷や汗を流しながらたどたどしく説明した。


「要するに契約に何か起きたが理由がわからん、ということか?」


 軍事大臣がバッサリと切り捨てた。


「いえ・・・死者契約が原因であることと、その親子関係が理由であることまではわかっているのです」


「親子関係・・・?」


 聞きなれない単語に首脳陣は当惑する。


「そもそも死者契約と言うのは、自分が親である、ということを死者に納得、あるいは錯覚させるものなのです。指輪と契約書を使い、その錯覚と納得を形としているわけです」


「ふむ・・・まあ、そのようなものであるとは聞いている」


 この場に居並ぶ王国首脳陣達とて無能ではない。

 王国を支える死者操作の技術については、一通りの知識はある。


「そして、その親も誰かの子である以上は、誰かの親がいるわけです」


「なるほど。原理上はそうなるな」


「その親の親の親・・・と遡っていくと、どこかに死者の祖がいることになります。王国で使役される全ての屍者の祖です」


「ふむ・・・」


「その祖の契約が失われたのかもしれない、というのが魔術師ギルドの研究と現段階の見解なのです。伝説のが存在する、というのは魔術師ギルド界隈では理論的な存在として噂されておりましたが、まさかこのような形で明らかになるとは・・・」


「では話は簡単ではないか!ここ数週間に失われた死者契約を探せば良いではないか!」


「いえ、話はそう簡単ではありません」


 軍務大臣の話を遮ったのは商務大臣である。


「軍事部門のことは知りませんが、商務では膨大な数の屍者が働いております。なにせ王国の労働者の4人に3人は屍者ですからな。魔術師達が一人あたり契約している死者も平均すると21人程になります。商務部門で把握しているだけでも死者契約の数は200万を越えます・・・まして王都では把握していない僻地でのいわゆる灰色契約であった場合、知る術はありません」


「むむっ・・・」


 当然のことであるが、王国首脳陣の会合に王宮魔術師の末席に過ぎないアーノルドは出席を許されていない。

 もっとも、もしも許されていたとしても保身のために自らの致命的な失態を口にすることはなかったであろうけれども。


「さらに計算算木屍者も機能停止し屍鳩で連絡を取ることができない現在では名簿の確認にも人海戦術であたらなければなりませんし、他の都市の状況の把握も命令にも支障をきたしております」


 商務大臣の報告に、他の首脳陣は真っ青になった。

 大国の統治は統計の把握と命令により行われるものだ。

 その両者が失われたということは、王国という巨大国家が成り立つ前提が失われたことを意味する。

 今後は「目に見える範囲だけを支配する」小さな封建国家群へ落ちぶれざるを得ない。


「それと・・・」


「他にもまだ何かあるのか!?」


 これ以上に悪いニュースは聞きたくない、とばかりに王は商務大臣を怒鳴りつけたが、その意向は速やかに無視された。


「・・・死者の行き場がないのです」


「・・・?どういう意味だ?」


「これまで王国は死者を全て買い上げて屍者として労働に使役してきました。死者は屍者により回収され魔術師により屍者として契約されます。その契約が不全になったために、都に死者が溢れているのです」


「なっ・・・」


 王国の首脳陣達は絶句した。

 人は必ず死ぬものである。

 死ぬが、死者は屍者として契約されて王国に尽くす。

 そうして死者の上に王国は栄華を築いてきたのである。


 しかし、今や死者は単なる死者である。

 死者として人による埋葬を待っている。

 ところが、王国には埋葬のための土地も、人も、仕組みもないのである。

 死者を弔う教会もなければ、安らかに眠る墓地もない。

 火葬しようにも人を焼く火葬場もない。


 死者の上に繁栄を築いた王国は、今や死者の重みによって国ごと沈もうとしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 そんな王国の事情はつゆ知らず。


 自分、こと、元王宮魔術師シュタイナーは山脈を超えたところ近くの港町で海の幸を満喫していた。


「ここの領主様も隣の国からお嫁さんを貰うことになったし、海を荒らしてた忌々しい王国の漁師達もこのところ大人しいし、いいことづくめさね!」


 これも海神様のお陰かね、と上機嫌な市場のおばちゃんから買った魚の両面を軽く焼いてからオイルを絞って食べる。


 美味い。


 もう数日滞在したら、小遣い稼ぎにこのあたりで屍鳩を利用した郵便屋を始めてもいいかもしれない。


 なにしろ長年にわたって悩まされてきた軽い頭痛も眩暈も去って、文字通り解放された気分なのだから!


 港そばの宿から見える海も空もどこまでも広く蒼く広がり、

 空を舞うカモメがクァークァーと鳴いている。


 穏やかな潮風をうけつつ、未来の計画を立てるのは楽しかった。


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