第39話 私は“私”に問いかける
詩織さんに生きる術を教えて貰う。
言葉にするのは簡単だけれども、私にとってはとてつもなく難しい事だった。
“私なんかの為に”。
こう言った思いが私の中で渦巻く。この渦の中から飛び出すのは勇気がいる事で、今の私にはそれが無かった。それでも、ついさっき私は一歩踏み出してみる事を決めたのだ。
『私がいるから大丈夫よ。安心しなさいな』
“もう一人の私”がこう言ってくれてるんだから。
詩織さん出会うまでは、唯一信頼していた人物。それが“もう一人の私”。私でない“私”はいつも的確な事を言って、幾度となく私を救い出そうとしてくれた。
その度に私は選択を誤っていたけれども、それ以降も何度も私に話しかけてくれた。
いつから“もう一人の私”が私に話しかけてくれる様になったのかは覚えてない。ずっといる様な気がするし、そうで無い気もする。
いつだったか忘れたが、何度か
『いつから私の中にいるの?』
と“私”に聞いたことがあった。
決まって“私”は
『それは自分で見つけることね』
と言ってそれ以上教えてくれなかった。
分からないから聞いてるのに……。
そう思いながらも私は“もう一人の私”のルーツを探そうとはしなかった。しても意味は無いし、したところで何かが変わるわけでも無いと思ったから。
いつまでも私の中にいてくれれば、それでよかったから。
『それで?どうやって詩織さんに頼むつもり?』
すっかり綺麗になった寝室へと来て、私がゆっくりとベッドに座ると同時に、“私”がそう聞いてきた。
それは、その……土下座じゃないかな?
『そんなことしたらまた詩織さんが悲しむでしょ!学習しないわね!』
そんなに怒らないでよ……っ!どうやって頼めばいいのか、私には分からないの。
私が心の中でそう“私”に伝えると、頭の中にため息の様な声が響いた。
『私にはさっき頼み事出来てたじゃない。それなのに、詩織さんには出来ないの?』
呆れてる様な口調で畳み掛ける“私”。
言葉や口調はキツい時はあるけれど、私の為に言ってくれてるのは分かってるから辛い気持ちにはならなかった。
“私”に頼むのと、詩織さんに頼むのだと全然違うよ!それに私とは
『生きてきた世界が違うって?』
……っ!!
私が言葉を伝え終わる前に、語りかけてきた“私”。その口調はどこか、イラつきを感じさせるものだった。“私”自身から伝わってくるダイレクトなイラつき。私に対するイラつき。
そして、いつまで経っても成長しない私へのイラつき。
全て私に直接流れ込んできた。
『そりゃ、違うだろうね。少なくとも詩織さんは前を見て生きているんだから』
さっきまでの私の背中を押そうとしてくれていた時とは全く違う口調。
どうにかして私を渦の中から突き飛ばそうしている口調。そして───
『あの家を出たんだから、いい加減前を向きなさいよ!早く私を消して、自由になってよ!』
───私をまた一人にさせる口調。
一人はもう嫌だった。一人でいても辛いだけだから。何をしていても虚しいだけだから。
一人は嫌。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!!!!
気づけば私は詩織さんを求めて立ち上がろうとした。
「……しおりちゃん?どうかしたの?」
まさか、すぐ横に詩織さんがいるとは思いもしなかったけれども。
さらに言えば、私の肩に詩織さんの頭が乗ってるなんて想像もしてなかった。
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