第24話 白と黒とピンク

「そういえば、しおりちゃんはどんな下着がいいんだろう……」

 小走りでコンビニに向かっていると、ふとそんな事を考える。


 清楚感があり、且つハズレのない白だろうか。それとも一歩成長させる為に大人な黒がいいのだろうか。もしくは私好みのピンク色で染めてしまうのも……。

 考える度にそれらを身につけているしおりちゃんが頭に浮かぶ。

 白い下着の爽やか笑顔のしおりちゃん。大人な妖艶な笑みを浮かべるしおりちゃん。そして、キュートな仕草を振りまくしおりちゃん。

 どのしおりちゃんも素晴らしかった。文句のつけようも無かった。


 しかし、これらは全て私の願望でしかないのだ。どんな下着の色が好きなのかはしおりちゃんしか分からない。本来はしおりちゃんが選ぶのが一番なのだ。

「……午後、ショッピングモールに連れていってみようかしら」

 ぽそりと心の中で思った事を口に出す。


 ショッピングモールには様々な店が立ち並ぶ。それは私がよく行くショッピングモールもそうだ。

 そして、その中には当然ランジェリーショップもある。

 それに、下着を抜きにしても、しおりちゃんが今後私の家で暮らしていく為に必要なものも揃えたい、というのもあった。

 そういう事を考えると、遅かれ早かれショッピングモールに行くのは決定事項だったのかもしれない。


 と、そんな事を考えているうちに私はコンビニへとやってきた。そしてすぐさま女性生理用品が並ぶ棚へと向かう。

「まぁ、コンビニだものね……」

 元々、コンビニにある下着にそんなに期待していたわけでは無かった。所詮は緊急用なのだし。それでも、やはり少々物足りなさを感じてしまった。


 いや、ちゃんとした下着が欲しいのならコンビニで済ませるなんてことはしないか。そう考えると、やはり妥当なのかも知れない。結局はその場凌ぎの為に買いにきたのだから。


 仕方ない、そう自分に言い聞かせながら私は棚から適当な下着を選び、ついでに近くにあった包帯も手に持ちレジへと向かう。

 しかし、レジの店員さんは間が悪いことに男性だった。普段の買い物ならなんてことない顔でレジへとそのまま行けたのだが、今はそういう訳にはいかなかった。


 と、進むか進まざるかを悩んでいると一人の男性が後ろから私を思いっきり突き飛ばす。

「ボーッと突っ立てんじゃねぇよ!!!レジ行けねぇじゃねぇか!!」

「あっ、失礼しました……!」

 やや薄汚い服装をしている男性に荒々しい言葉使いをされ、私は咄嗟に頭を下げ謝罪する。

 コンビニの狭い通路の真ん中で考え事をしてしまい、通行の邪魔をしてしまっていたようだった。隅っこに寄るなどして周りを気をつけるべきだった、と深く反省していると……


「いい歳して、コンビニで下着とか……はっ!恥ずかしくねえのかよ」

 と吐き捨てるようにして言葉を発する一人の男性。そしてそのままレジ台へと商品を置く。

 レジにいた男性店員さんは困った様子でしどろもどろしていた。


「その方を先にやって大丈夫ですよ」

 私がそう言うと、店員さんは私に軽く頭を下げた。礼儀正しい子で私は一安心すると共に、目の前の男性に無性な苛立ちを覚えた。

 突き飛ばした上に謝るどころか、人を馬鹿にするような発言。推定するにきっと私よりも年上だろう。そういえば私によくセクハラしてくる上司もこの人と同じくらいかも知れない。

 そう考えると、年上の男性はこんなのばかりかと、私は心底ガッカリした。


 それと同時に私は早く家に戻りしおりちゃんの顔を見たくなった。しおりちゃんが少しづつ私に心を開いてくれてるあの瞬間が今の私にとっての癒しだった。

 だからこそ、早くレジを済ませてコンビニから出よう。

 さっきの男性が、「この顔、見たことねぇ? 」と店員さんに写真を見せて何かを聞いていたけども、そんなことより早くレジから退いて欲しかった。


 あれからも長々と店員さんに質問責めしていたが、やがて奥にいた店長らしき人に事務所へと連れて行かれた。

 なにやら「アイツがいねぇと俺らの生活が……!!」とかなんとか言っていたが、あらかた奥さんにでも逃げられたのだろう。家でもさっきの態度をしていたのなら、自業自得だと思った。

 それよりもようやく、レジが空いた。これでしおりちゃんの元へと戻れる。

 さっきまで店員さんが男性だからと気にしていたのが嘘みたいにすんなり体が前に出た。

「さっきはありがとうございました」

 店員さんは私にそう言うと、手早く袋詰めをしてくれた。


 私はすぐさま家へと戻った。コンビニへ向かう時よりも早く。しおりちゃんに早く会いたい一心で。

 そして私は家の玄関を開けた。その刹那、家の奥ゴスッという鈍い音が聞こえた。

 もしやしおりちゃんの身に何かあったのか。途端に不安になり、大急ぎで家に上がる。靴なんて揃えてる余裕なんて無く、勢いよく投げ脱いだ。

 そのままリビングへと入ると寝室にしおりちゃんがいるのが確認できた。それと同時に、一つベッドから放り出されてる枕と、しおりちゃんが手に持つ“彼”の灰皿も。


「しおりちゃん、そこまで」

 どうしてこんな事になっているのか分からなかったが、もっと真剣にしおりちゃんと向き合わないといけないのかもと、考えさせられたしまった。

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