第20話 漏れる吐息と悪戯心
「……一人で食べると味気ないわね、やっぱり」
泣き疲れて気を失ってしまったしおりちゃんを介抱し終えた私は、キッチンでこっそりと食事をしていた。
時刻は10時。お昼までにはまだ時間があるし、食べても問題ないだろう。
それに、きっとまたしおりちゃんが美味しそうに食べる様子でその場を済ませてしまうだろうし、むしろ今のうちに食べておくのがいいかもしれない。
そう言い訳しながら、今朝の朝ごはんの残りを口の中に放り込む。けれど、やはり一人で食べる料理は味気なかった。
「やっぱり、お昼は一緒に食べようかしら……」
そんなことを呟くとリビングの方からしおりちゃんの声が聞こえた。
「行かなきゃ。しおりちゃんが起きてる間は傍にいなゃ」
口の中に残っていた照り焼きチキンを水で無理やり流し込み、急いでしおりちゃんの元へと向かった。
そして私がしおりちゃんの元へとたどり着くと
「んぅ……ぅ?」
「あら、しおりちゃん気がついたみたいね」
「……おねえ、さん?」
タイミング良くしおりちゃんは目を覚ます。ゆっくりと、目を開けるとそのまま私と目が合う。
「大丈夫?気分悪くない?」
そう聞くと同時に、洗いたての髪の毛が、しおりちゃんの顔の方へと垂れ下がる。
私はすぐさま髪を搔き上げたが、変な匂いでは無かっただろうか。お気に入りの薔薇のシャンプーで念入りに洗ったつもりだけれども、洗い残しがあったらどうしよう。
今ので気分を害してしまったらどうしよう、とあっという間に髪の毛のことばかりで頭がいっぱいになった。
しかしそれは杞憂で終わった。
「それは大丈夫、ですけど」
「そう。なら良かった」
さほど気にするようなことではなかったようだ。
私は、そんな激しい心の変化を悟られないように気をつけながら、優しく微笑みながらしおりちゃんに返事をした。
やがて、意識がしっかりしてきたのか
「あの、さっきまで私たちお風呂に……いたはずじゃ……」
と聞いてくるしおりちゃん。
そんなしおりちゃんに私はちょっとした悪戯心を抱いてしまった。
「そうよ〜。ちゃんと綺麗になってるでしょ?」
しおりちゃんの気を失っている間に隅々まで洗った体を人差し指でツツーっと優しく指でなぞってみた。
時折、「んぁ……っ」と短く甘い声を出すしおりちゃんに、より一層の悪戯をしてみたくなってしまう私だったが、
「……また迷惑かけちゃって、ごめんなさい」
しおりちゃんのこの言葉に私は我に返った。
「こちらこそごめんね」
「えっ?」
なんの事かと分からないと言った表情で私を見つめるしおりちゃん。その純な瞳に罪悪感を抱く。
それに、
「嫌なこと思い出させちゃって。……私もまだまだね」
私が浴室で余計な質問したことでしおりちゃんを泣かせてしまったのだ。きちんと反省しないといけない。
さっきの事。そして、きっとこれからの事も。
「いえ、おねえさんが悪いわけじゃ!!」
「いいのいいの。そういうことにさせてちょうだい?」
きっとこれからも、余計な質問をしてまた泣かせてしてしまうかもしれないから。
それに……
「わ、分かりました……」
きっとまた、私の悪戯心が芽生えてしまうかもしれないから。
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