第15話 詩織さんと一緒

 ボディーソープをたっぷりと染み込ませたスポンジを手に持つと、詩織さんは優しく私に囁く。

「それじゃあしばらくじっとしててねー」

 と。

「ひゃっ、ひゃいっ!!」

 人に体を洗って貰うなんてことは今まで無かった為、私は思わず声が上擦ってしまった。

 水の滴る音が聞こえる浴室に私の声が激しく反響する。

 思ったよりも可愛らしい声を出せた事に私は驚いた。私がこんな声を出せるなんて、今まで知らなかったのだ。

「もしかして、緊張してる?」

 私の声を聞き心配したのか、身を乗り出し私の様子を確認する詩織さん。

「……ご、ごめんなさい」

 目の前に現れた詩織さんの顔に驚き、私は思わず謝りながらサッと顔を背けてしまった。

 私を心配して声を掛けてくれただけなのに、私は拒絶するような反応をしてしまった。


 そんなつもりは無いのに、詩織さんを拒絶する理由なんてないのに、私は反射的に拒絶してしまった。

 今度こそ、嫌われてしまったのかもしれない。


 そう思った、その瞬間だった。

「おねえさん……?」

 詩織さんが首に手を回しながら優しく私を抱きしめてきた。背中には詩織さんの豊満な胸が押し当てられ、甘く大人な香りが私の鼻をくすぐる。

 魅力的な詩織さんの体をその身で感じると共に、廊下で強く抱きしめられた時とはまた違った安らぎも感じられた。

 今度は胸が痛くなることは無く、その代わりに自然と顔が綻ぶ。鏡越しで自分を見ると、普段とは明らかに顔が緩んでいるのが分かった。


 すると、詩織さんは鏡越しで私と目を合わせながら口を開く。

「私と一緒だね」

「……おねえさんも緊張してるんですか?」

 詩織さんも私と一緒……?

「もちろん。人を洗ったことなんて、今日が初めてなのよ?」

「そう、なんですね」

 詩織さんも緊張するんだ……!

「だから初めて同士、お互いがんばろう?」

「は、はい……!」


 さっきまで緊張していた私だったが、詩織さんも緊張していたことを知るとどこか力が抜けていった。

 完璧超人な詩織さんの前で下手なことは出来ないとどこか緊張していた私だったが、そうでは無いと知るとどこかホッとしたのだ。

 私だけではない。それが今の私にとってとても嬉しかったのだ。

 詩織さんと一緒。それだけで私は心が踊っているのだ。


「それじゃあ、まずは背中から洗っちゃおっか」


 力加減を少しづつ変えながら、試行錯誤しながら私の体を洗い始める詩織さんの表情は、さっきまで私に見せていた表情とは違って、少し嬉しかった。

 願わくば……この姿を知っているのは私だけであって欲しい。

 そう思いながら、少しづつ綺麗になっていく私を鏡で観察し始めた。

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