第13話 鏡の中の私に夢を見る
「それじゃあ、しおりちゃん。ここに座って?」
「こう、ですか?」
詩織さんに言われるがままに、私は真っ白な浴室にポツンと置かれていたピンク色の椅子に座った。
目の前には、詩織さんのおへそ。綺麗で、艶っぽくて、思わず見蕩れてしまうほどの素敵なおへそ。
こんな素敵なものを持っている女性に、私はなれるのだろうか。
早速、先程の決意が揺らぎそうになった時だった。
突然、クスッと笑う詩織さん。
1体どうしたのだろうと、私は顔を見上げる。
「ふふっ……私を見たって仕方ないじゃない。鏡の方を向いて座るのよ」
「えっ……あっ、すいません……」
どうやら座る向きが違ったようだった。
もう少し詩織さんの体に見蕩れていたかったのにと、心の底から残念がる自分にいることに驚きながら、詩織さんに謝りつつ鏡が正面になるよう体の向きを変えた。
私の身長よりも縦に長いその鏡は私だけでなく、私の後ろに立つ詩織さんまでくっきり映していた。バスタオルを覆っていない、無防備で美しい、ありのままの詩織さんを。
ありのままの詩織さんは言うまでもなく美しかった。バスタオル越しでもわかった豊満な体がより際立って見えた。それでいて引き締まるところはきちんと引き締まっていた。まるで芸術品を見ているようだった。
そう思わせたのは、椅子に座っている私の頭の上で幾度となく主張をする乳房にポツンとある蕾。美しく淡いピンクの小さな蕾。
先程のおへそ以上に私は見蕩れてしまっていた。それほどまでに私にとって詩織さんの体は完璧だった。
そんなことを考えていると
「いい?鏡で自分の事をよく見ておくのよ?」
と私に伝える詩織さん。
「私を……ですか?」
なんで今更私なんかを。なんで今更醜い私の姿を見なければならないのか。
表には出さなかったが、私は内心嫌だった。完璧な詩織さんを見た後では惨めな思いをするだけだって決めつけていたから。
しかし、詩織さんは言葉を止めなかった。
「そうよ。今から自分が素敵になっていく様子をよく見ておくの」
「私が……綺麗に……」
鏡に映る私を見ながら、私は呟く。
鏡に映る私はみすぼらしがった。ツヤなんてとっくに消え失せている髪に垢だらけで茶色っぽい肌。
公園の水道だけで身の清潔を守ってきた私の現状が誤魔化しようもない形で目の前に映し出されている。
これが今から綺麗になるというのだから、ドキドキして仕方なかった。
こんな私だって、一度だけでも綺麗になりたいと願うことは何度もあった。それがどんな時かは今は思い出せないけれど……確かに何度も願った。
それが、今叶うのだ。
「よろしく……お願いします……」
しっかりと目に刻み込もう。もしかしたら、こんな機会二度とないかもしれないのだから。
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