第12話 空虚な私と憧れ

「……綺麗」

 私の体をジーーっと見つめていたしおりちゃんが、ボソっと言った。

「そんなにジロジロ見られたら恥ずかしいわよ……」

 私は慌てて近くにあったバスタオルで自身の体を隠した。人様に見せられるような体ではないのだ。

 成長するにつれ、体は徐々に肥えていき、一度ひとたび薄着になればジロジロと見られるばかり。

 私はもっとスレンダーになりたかった。目の前のしおりちゃんのような細身で、スラッとした体型に。

 今でこそ、肉が少なく細すぎるしおりちゃんの体だが、正常な体つきになった場合にはきっと素敵な女の子になるのだろう。


 羨ましい限りだ。

 そんな事を考えていると、しおりちゃんが突然こんな事を言い出したのだ。

「私も詩織さんみたいになれたらなぁ……」

 と。

「えっ?」

 しおりちゃんの言葉に、私は耳を疑った。

「あ……っ!!」

 言ってしまった、とバツの悪そうな顔をしているしおりちゃん。

 と言うことは、さっきのは空耳では無いのだろう。



 私みたいになりたい……?

 本当に……?

 私は、誰かの憧れになるような存在になれてるの?

“あの人”の元を離れてから、どうにか“あの人”みたいになりたくて何かと真似事をしてきた私が……誰かの憧れに?


 到底、信じられなかった。しおりちゃんの言葉が信じられないわけでは無い。

 自分自身が信じられないのだ。

 ずっと“あの人”を追いかけていたから。“あの人”の真似事ばかりだったから。

 自分自身と、向き合ってこなかったから……。

 そんな自分が、憧れの対象になってるなんてすぐには受け入れられなかった。


 けれど、それでも……私は聞かずにはいられなかった。

「私みたいになりたいの?」

「それは……その……」

 私が誰かの憧れになれるのなら……

「自分の心に正直になってみて?しおりちゃんはどうなりたい?」

 借り物のこの言葉もいずれ自分の言葉にしてみせるから。

「…………なり、たいです」


 だから───


「おねえさんみたいに……なりたい、です!!」



 先生、見守ってて下さいね?

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