第7話 対比、対照、対価の朝ご飯

「はい、これしおりちゃんの分ね」

 そう言うと詩織さんは私の目の前の机に料理とトーストを置いた。

 私はそれを見て驚きを隠せなかった。

 それは、今まで見た事のないような豪華な朝食だったのだ。大きなお皿の上にはスクランブルエッグに色鮮やかなサラダがあり、そして中央には細かい葉っぱが表面にコーティングされた鶏肉が盛られていた。後に聞いた話だと、この鶏肉はハーブバターで作った照り焼きチキンだそうだ。そしてトーストには、レーズンが埋め込まれていた。



 しかし、私が驚いているのはその豪華さだけでは無かった。

「あの……お姉さん、この量は」

「あっ、少なかった?ゴメンね、足りなかったら大急ぎで追加作るから遠慮なく言ってね」

「違います、むしろ逆です!私こんなに頂けません!」

 多すぎるのだ。

 明らかに、私なんかでなくても女子高生に出す量とは思えないほどに、お皿に料理がこんもりと盛られていたのだ。

 それはおかずだけでなく、トーストにも言えた事だ。明らかに、私の知っているトーストの厚さでは無かった。少なくとも私の知っている厚さの三倍はある。

 それだけならまだ良かったのだ。


 そう、わたしだけで無いのなら。

「ついつい、張り切りすぎちゃったかしら」

「……それに、お姉さんのはトーストだけじゃないですか。私よりもお姉さんが沢山食べるべきなんじゃ……」

 詩織さんの元には、私の半分ほどの薄さしかないトーストがあるだけだったのだ。しかもレーズンが散りばめられている私のと違い、シンプルな食パンな状態で。


 不公平を通り越して、もはや訳が分からなかった。詩織さんは私に何か試しているのだろうか。

 分からない。

 私には詩織さんが何を考えているのか、まるっきり分からなかった。


 私が困惑の渦の中にいると、詩織さんは私に微笑みながら私にこう言ってきた。

「私の分はこれだけでいいのよ。しおりちゃんが美味しそうに満足するまで食べる姿が見れれば、ね?」

 と。


 詩織さんの笑顔は嘘偽りのない本物だと、私の直感が告げてくれた。

 その直感が無しにしても、目の前の料理が醸し出す香りが空腹状態な私には効果抜群であり、気づけば皿の横に置かれたナイフとフォークを持っていた。


 そのことを確認した詩織さんは

「というわけで、ね?食べよ?」

 そう言ってニコニコと私が食事を始めるのを観察し始めた。



 そして私は、空腹に逆らえず一口、また一口と料理を口に運ぶのだった。今までで一番温かい朝ご飯を────。

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