第6話 ちょっとした悪戯心、痛感する無力さ

「どうして、お姉さんは私を拾ったんですか?」

 しおりちゃんは私の顔をまっすぐ見ながらそう聞いてきた。

「気になる?」

「はい」

 不安そうな顔をして聞いてくる彼女に確認してみると、しおりちゃんは即座に返事をしてきた。

 よほど私がしおりちゃんを保護した理由が気になるのだろう。


「ん〜、そうねぇ……」


 あなたで愛を満たしたかったから。


 そんな言葉を口に出せるはずもなく、私は考えるフリをした。


 そう。フリである。

 彼女をこの家に連れてきた際に理由は考えていた。

『困っているしおりちゃんを見たら放っておけなかった』

 と。

『あんな所にいたらきっと大変なことになってただろうから』

 と。

 決してこの言葉が嘘という訳では無い。

 実際問題、しおりちゃんと出会ったデパート周辺は裏通りに入ればキャバクラなどが並ぶ、真の“夜の街”なのだ。

 だが、結局先程の言葉は上辺だけの理由に過ぎない。

 本心では無いのだ。


 しおりちゃんで愛を満たそうとしている私。これが本当の私だ。

 決して、いい人という訳では無い。

 とは言え、素直に私の本心を話すのも躊躇われた。



 と、こんな風にモヤモヤと葛藤していると、突然しおりちゃんのお腹が鳴り始めた。

「あっ……すいません。我慢しますので、続けてください」

「いいえ、謝らなくていいのよ。とりあえず、朝ごはんにしましょうか。我慢は体に毒よ」

 顔を赤らめながら謝る彼女に私は諭すように優しくそう告げる。

 むしろ、彼女の体が空腹を伝えてくれて助かっていた。

 どうやったら自分に嘘をつかずに、彼女に私が安全である理由を告げる事ができるのかを考える時間ができるのだから。

 しかし、私が安堵したのも束の間だった。

「すいません……」

「謝らなくてもいいのに」

「あっ、すいません」

 しおりちゃんの様子がどうにもおかしかった。

 こんな短時間に何度も謝る子はそうはいない。

 悔しいが、今の私にはきっとこの子をどうにかすることは出来ないのだろう。

“あの人”ならきっと直ぐに解決出来てしまうのかもしれないけれど、今の私には出来ない。

 そう思うと、やはり“あの人”は凄い人だったのだと実感させられる。どうしようも無かったかつての私をここまで育て上げてくれたのだから。きっとこの子の問題も、あっさりと解決してくれるのだろう。

 それでも、私はこの子を他の誰かに委ねる気にはなれなかった。私だけで、解決したいと思ったのだ。

「謝るのが癖、なのかなぁ……?あっ、ちょっと待ってね。今料理を温め直すから」

 そう言って、私はハーブバターの香りが漂うリビングの方へと先に戻り、冷めてしまった料理をレンジで温め直した。


「……すみません」

 部屋の去り際に微かに聞こえた彼女の言葉に、自分の無力さを痛感しながら。


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