第5話 それでも私はまた同じ言葉を繰り返す
「どうして、お姉さんは私を拾ったんですか?」
私がそう聞くと、詩織さんは不敵に笑いながら
「気になる?」
そう私に聞いてきた。
「はい」
即座に私は詩織さんの目を見ながら返事をした。
そんな私の返事に反して
「んー、そうねぇ……」
と悩み始める詩織さん。
昨日の夜、拾ってくれたのは一時の気分だったのだろうか。
そう思うと途端になんとも言えぬ不安感が襲ってきた。
この人も、あの人たちと同じ人なのだろうか、と。
けど、あの人たちと決定的に違うことがある為か、私はより一層困惑することになった。
あの人たちと一緒にいた時は、まともな睡眠を取れたことなんて滅多になかったのだから。
それに比べ、今日私は二度寝をしようとしたのだ。
見知らぬ部屋だと言うのに、安心感を抱いたのだ。
結局、あの人たちのことを思い出してしまい、二度寝は叶わなかったのだけれども。
あの人たちが横になっている私に優しく微笑みかけてくれた事はあっただろうか。
いや、そもそも私の事を気にかけてくれてたのだろうか。
多分一度もない。あの人たちが私に関心を抱いてくれた事なんて無かった。
だからこそ、詩織さんが考え込む姿を見た時、心がザワついたのだ。
それと同時に、内なる私がポツリとこう呟いた。
『この人の役に立ちたい』
と。
私もそう思う。私を拾ってくれたお姉さんにきちんと恩返しがしたい。
例え、私を拾った理由がどんなものであれ……。
そう自分の心の中で決意表明すると、突然私のお腹の虫が鳴り出した。
「あっ……すいません。我慢しますので、続けてください」
せっかく詩織さんが考えてくれてると言うのに、とても間が悪かった。
どうしてこんなタイミングで鳴るのかと、自分のお腹を恨んだ。
考えてる時に私がお腹を鳴らしたことで、気分を害された詩織さんは怒っているだろうと思って私は肩を竦めた。
しかし、詩織さんは優しかった。
「いいえ、謝らなくてもいいのよ。とりあえず、朝ごはんにしましょうか。我慢は体に毒よ」
「すいません……」
怒るどころか、優しく私に諭しながら朝食を促す詩織さんに、私は申し訳なくなりぽつりと謝る。
「謝らなくてもいいのに」
「あっ、すいません」
謝らなくてもいい。
そう言われても尚、私は反射的に謝ってしまう。
「謝るのが癖、なのかな?あっ、ちょっと待ってね。今作ってたの温め直すから」
いつからだろう、こんなにも人の顔色を伺うようになってしまったのは。
いつからだろう、こんなにも何かに漠然と怯えるようになってしまったのは。
「……すいません」
こんな私を拾わせてしまった詩織さんに申し訳なくなった私は、朝食の準備をしようとリビングの方へ立ち去っていく彼女の背中を眺めながら再びぽつりと謝った。
今度は、詩織さんに聞こえないように。
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