第6話 嘘と真実
その後も俺達は、日暮れまで屋上で話し続けた。
「北半球と南半球で水流の渦が逆になると聞くけど、それはどうなんだ?」
「あれはね、最初に力を加えた方向に渦が出来るだけなんだ。静止したペットボトルを逆さにしてごらんよ? 渦なんてできないから」
「ロケットを飛ばしてるのはどうしてなんだよ?」
「あんなのパフォーマンスだよ。観衆は全部エキストラだし、ロケットは天井を決して超えられない。ただぶつかって落ちてくるだけさ」
俺は沢山の質問を優太に投げ掛けたけれど、決して優太は折れなかったし、妙に辻褄が合っていて、逆にその理屈の真偽を考えさせられた。
誰かが嫉妬して怒るということは、結局のところ、好きってことなのだ。
対極へ追いやられたルキフェルが、人間の暮らす世界を創って大切にしている様は、神の心を苛んだことだろう。
結局、神は、ルキフェルに愛してもらいたかっただけなのだから。
優太は、まるでそれが本当の真実だとでもいうように、俺に沢山の説明をした。
ルキフェルが人間の為に果実を実らせれば、神は毒の果実を紛れ込ませる。
乳の取れる草食獣を生み出せば、肉食の獣を神が解き放った。
植物、虫、細菌……あらゆるものを生みだす度に、神の嫌がらせのような介入があり、人間を悩ませるものも増えていった。
巨人や恐竜、公に発表されていないけれど、その化石は多く発見されている。
そして、そう、化石。
世界は一度、神の大洪水によって滅びかけている。
ルキフェルが別たれて2000年のことだと、記録には残っている。
それまでの世界はシリコン(ケイ素)を組成とした生物が主であり、現在のカーボン(炭素)組成と違って生物は石へと還る仕組みになっていた。
現在生きているカーボン組成の生物は、決して死んでも石になどなりはしない。
そして、その痕跡は誰にでも確かめることが出来る。
かつてルキフェルを苗床とした大きな植物によって人間は守られていたが、巨人によって全ては切り倒されてしまった。
柱状節理――それは現在山となり大地となって、過去の大木の名残を残した石だ。
また、ルキフェルと共に堕とされた僅かな天使たちは、人間を指導し復興させていったと記録に残っている。
世界各地の伝承、記録に現れるビラコチャ、アヌンナキという指導者のことだ。
旧約聖書や福音書に語られるノアの箱舟もまた、事実存在した歴史であり、アララト山で箱舟の現物が発見もされている。
アララト山のノアの箱舟の存在は、16世紀にかかれた世界地図でも描かれており、地球や宇宙といった理論が広がる以前、まだ神話が語り継がれていたことが分かる。
大洪水からさらに2000年後、神の代弁者イエス・キリストが遣わされた。
『神を称えよ。そうすれば救われる』
『偶像崇拝をするな。私は像の中にはいない』
新約聖書として広まるその教えは、神が人間の信仰をルキフェルから奪う目的があり、写した『私』を一切認めないという意が込められている。
ルキフェルに救われてきた人間は、イエスを異端として磔にしたが、結局その奇跡の力から信者を増やしていった。
イエスには12人の使徒がいたとされており、後に世界にその支配域を広げていった末裔はユダヤといった。
日ユ同祖論で語られるように、日本にもそのルーツはあるとされ、君が代のヘブライ語説では、神を称える歌となっている。
ダンテの神曲では、イエスを裏切ったユダは、コキュートスの中心、最下層ジュデッカにおいて、サタンに囚われているとされる。
優太の考えでは、ルキフェルへの感謝を忘れなかったユダが匿われていたんじゃないかということだった。
現在、イエス誕生からまた2000年経っている。
必ず何か起きると優太は言った。
「世界が滅ぶのか?」
「わからないよ……、でも……、神はルシファーを諦めたりはしないと思うよ?」
ヨハネ黙示録に書かれている神の預言(計画)の進行は、それを託された人間たちによって行われ続けている。
人間の世界は、神の勢力とルキフェルの勢力で鬩ぎ合っている状態だ。
けれども、ルキフェルの真実を知る者はとても少ない。
サタンを悪とするために、神の勢力は、テロ、ウイルス拡散、マイクロチップ入りのワクチン、アドレノクロム、小児虐殺、悪魔儀式、そういったものに666やプロビデンスの目を印として残し、サタン信奉者の行為として広める。
インディアンの聖地に、ルシファーという天体望遠鏡が建設されたことも有名な話である。
人間を愛し、人間を守ってきたルキフェルにとって、人間に誤解され、敵視されることはどれほどの痛みを覚えるのか……。
「本当だ……、人のいじめとそっくりだな……」
優太から見せられた、ワクチンの特許番号の画像を見て、あぁ、世界はなんてくだらないんだと思ってしまった。
俺達が最も使用しているOSの企業名で出されている、マイクロチップ入りワクチンの特許番号は――。
屋上には、いつしか綺麗な夕陽が差していた。
優太の言を信じるなら、あの沈みゆく夕陽も、ただ遠く遠ざかるだけということなのだろう。
「なぁ……、ならさ、一緒に北極行ってみねぇか?」
これは、綺麗な夕陽にセンチメンタルになったからだろうか。
それとも中二病ってやつは感染力が強いからなんだろうか。
世界の中心、北極の下に、もしルキフェルがいるなら――会いたかった。
俺の心の中で、忘れていた大切な『しなければならないこと』を思い出した気がした。
世界に『主人公』は――、やっぱりひとりで十分なんだろうって思う。
そして――、人間が『神』に勝つなんてことは絶対ないだろう。
なら――、終わるその日まで、俺は『主人公』をやろうと思う。
「いいね。これから忙しくなるね」
初めて笑った顔の優太を見た俺は、初めて友達が出来た真実に、やっぱり笑っていた。
世界の終わり 神話の始まり アラジン @majin-lamp
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