第5話 フラットアース
「だからね、宇宙人なんていないんだ。地球とか宇宙とか、全部嘘なんだ。嘘があまりに大きすぎて、誰も嘘だなんて疑わないんだよ。この世界は本当は平らで、空にはドームが張ってあるんだよ」
「俄かには信じられねえな……。けど、信じられねぇってのは大人から教わる知識も同じなんだけどな……」
そう、信じられるものなんて何もない。
『俺』が『俺』であり続けること以外に。
「テレビ、雑誌、多くのメディアで球体の地球を見せて、それが当然って刷り込んでいるんだ。テレビなんて洗脳機器なんだよ? テレビ局なんて全部ひとつの組織に支配されてるんだ。教科書もそうだよ? 小学生の時さ、地軸が23.4度傾いているって習ったでしょ? でも垂直からの傾きを教えるなんて変じゃない? 角度は水平から測るものなんだから」
試しに俺は、90度から23.4度を引いてみる。
これは……偶然にしては出来すぎてる……のか?
「普通に考えて音速で回転するボールの上に、人が立ったり水を溜めたり出来るわけないでしょ? ロケットだって着陸できないよ? だからもちろん重力って考えも作られた嘘さ。どんなに重いボールを回したって物を引き寄せたりなんかしないんだよ?」
それが本当か嘘か、解らない。
判断できるほど、俺は何も知らないということは知らされた。
他人が誰も信用ならないとか言いながら、結局俺は、大人たちの教えることを鵜呑みにして、周囲のクラスメイトと同じように素直に大人の常識を信じ込んでいた。
結局――、自分自身で知らなければならないのだ。
どちらの理屈も精査して、他の可能性も考慮して、『真実』なんて自分でしか見つけられなかったんだ。
俺は、いつの間にか優太との会話にのめり込んでいた。
「NASAやJAXA、宇宙の研究とか全部嘘だってのか? 衛星だって俺達は使ってるだろ?」
「衛星や宇宙ステーションなんかも嘘だよ? 衛星写真は単なる航空写真だし、電波は地上の電波塔と海底ケーブルなんかの有線で繋げているよ。GPSは3点の電波塔から割り出しているだけだしね。NASAは嘘を真実として広める機関なんだ。この動画を見るといいよ。NASAのしていることが分かるから」
そうして見せられた動画には、宇宙空間に映り込む水泡や鼠、カメラマン、CG合成のグリーンバック、宇宙飛行士を吊り下げるワイヤーなどなど宇宙を演出している様が再生されていた。
それが加工かどうか、俺には判断できなかった。
だから、別の角度からの質問も試みる。
「地球がもし平らなら、どうやって太陽は昇るんだ? 世界の端っこはどうなってるんだよ?」
「世界の端は南極だよ。360度円状に南極があるんだ。南極が不可侵なのはそこにドームの壁があるからさ。ほら、これ見て。『スカイアイス』っていう青い特別な氷が壁を造ってる。各国が南極でドームの研究をしているんだ。ほら、これはね、16世紀に書かれた世界地図。北極を中心として南極大陸までも書かれている。世界史では1820年に南極大陸は発見されたことになってるけど、もっと前から世界の姿は知られていたんだ。神話を隠す為に宇宙とか地球とかの理屈をでっち上げたんだよ」
「太陽は?」
「太陽は昇らないし沈まないよ? ただ上空を回っているだけさ。これは錯覚なんだ。もし真っ直ぐな廊下があったらどう? 遠く先は床も天井も合わさって点になってしまうだろ? それが広い部屋だったらどう? 360度見える限界で線になってしまうだろ? でもその先にもきちんと廊下も部屋も続いている。望遠鏡を使えばその先はまた見えるんだよ? この世界の天井はね、部屋なんかよりずっとずっと高い所にあるんだ。だから地面よりずっと遠くの空が見えるし、まるで空が垂直に落ちるように見えてしまうんだ。これはね、単なる遠近法で視界の特性だ。けれど、学校じゃ絶対教えてくれないのさ」
遠近法? 少し難しくなって俺はしばし考える時間が必要だった。
確かに、もし球体であったなら、何処に立ってもそこがもっとも高い位置になる。
地平線や水平線は下方に向かって見えるような気がする。
視線の高さに向かって地平線や水平線が上がるのは、少なくともその距離までは平らであることを意味していた。
そして、俺は地球のカーブを自分の目で確かめたことは今まで一度もなかった。
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