第4話 くるみのそばで

くるみは傷ついた。


自分の容姿を好きだと思った事は無い。

実はコンプレックスだらけだし、自分が望んで人前に立つようになったわけでは無い。

控えめに生きてきたつもりだったし、固い鎧で身を守って来た。自分でもわかっている。わたしは案外内面はもろいのだ。



こむぎから言われた くるみは主役 という言葉がくるみの心を砕いてしまった。



くるみは、こむぎに弱さを知ってほしかった。そして守ってほしかった。

こむぎだけが自分を見てくれる事を望んでいた。

それなのに、、。

熱く胸を焦がした恋は、実らずに。あっと言う間に冷めてしまった。

世間が憎い。

私をオシャレだ素敵だと持ち上げた世間が憎い。



くるみは、今までの全てを止めて、旅に出た。

どこか、誰も私の事を知らないところへ…消えてしまいたかった。

くるみの心は粉々に砕けてしまったのだ。


      

      ………………



そして、くるみはその後、ある出会いをする。人里離れた田舎の山道ですれ違ったその姿が、こむぎを思い出させるように感じ、つい立ち止まる。すると、ちょうど向こうも振り返った。こむぎによく似ているようだが、少し影のある雰囲気だった。

そして「あれ、隣の娘かと思ったら、違ったな」と言う。「この辺で見かけない顔」と言われる事にうんざりしていたくるみにとって、それは意外だった。

ほっとして、つい身の上話をしてしまった。

旅をしていること。何処へ行ってもよそ者な事が寂しいこと。目立つ存在の自分が嫌な訳。すると黙って聞いていた影のある横顔がくるみに言った。「じゃあ、あんた、この村に留まるといい。このあたりじゃあんたみたいな顔はごろごろいるさ。親戚の嫁さんにもよく似たのがいるし、さっきも隣の娘だと思ったぐらいよ」

くるみは久しぶりに心が軽くなった。

瞳が輝き揺れる。

「なあ、出会ったばかりで、こんなこと言うの、、あれなんだけどよ。 あの…、多分、これって運命の出会いじゃねぇかと思うんだよ」「え…?」「おれ、多分。いや絶対におまえさんと相性が良いと思うんだよ」「それは、、どうして?」「それはその…、同じ雰囲気が…」「雰囲気?」「そう。悪い意味じゃねぇんだ。なんていうか、、地味だけど、特別な、そんなふたりになれる気がするんだよ。そんな幸せが」「素敵。地味だけど幸せ… 私が探していたものかもしれない…」

「泣くなよ。なあ、泣くなよ。」「うん、ありがとう。わたし、あなたの側にいます」「おう、おれと一緒になって、、くるみそばになれよ。おれ、蕎麦って言うんだ」「くるみ、そば?」「そう、おれの村ではかかあの名前が先になんの。くるみみそとか、くるみだんご なんてのもいるよ、珍しくもなんともねぇんだよ」


  ……………………………………



流行り廃りが早い世間では、ハードな路線で一躍人気をはくしたくるみの記憶もすっかり薄くなり、今やふわふわとろける や、もっちりもちもちなんてのが流行っていて、クリームだのシロップだの。まあ、くどくどしい喉が乾くようなもんがもてはやされている。


え?

いったいなんの話しだったんですか、これ?


ナンじゃなくて、パンの噺だよ。

お後がよろしいようで。


ツッテレテンテン ツテ テテ テン♪



  〔お し ま い (◍•ᴗ•◍)/〕


(注1)礼一、駿レーズン

   星、舞、ほし ぶどう

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こむぎとくるみ モリナガ チヨコ @furari-b

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ