第4話 帰る場所
朝日が登る。今日も猛暑日になりそうだ。サカナはまだ腕に貼り付いて添い寝していた。「チヨミ、目に蓋があるんだね。開いてる時は起きてるの?」「おはよう。まず起きたらおはようって言うんだよ、人間は。目に蓋があるよ、開いてたら起きてる、あってるよ。」「チヨミ、おはよう。蓋があるんだね。」
今日は仕事だ。実験補助だから、ほとんど誰とも喋らず1日中実験三昧で気が楽だ。仕事の間、サカナはどうするんだろう。
「君さ、巣に帰らなくていいの?」
「巣はないよ。昨日はうっかりしてたんだ、空を泳いでいたらいきなり凄く雨が降ってきて。どこでもいいから雨のかからないところに入りたかったんだ。」
「サカナなのに濡れるのが嫌だと?まあいいや。じゃあもう出て行く?私、今日仕事で家にいないけど。」
「仕事って何」
「んー、別の建物で、ご飯を買うために働くんだよ」
「ここにいてもいい?初めて僕以外と交信できるチヨミと、もうちょっと一緒にいたい。」
サカナは家で私を待っているつもりらしい。すごいな、今日は初めて人(サカナだけど)の待つ家に帰る経験をするのか。想像してみる。ドアを開けて「ただいま」って言うのだ、何十年ぶりだろう。くすりと笑みが溢れてしまう。
「ああ、そうだ、君ご飯はどうするの?」
「ん、寝てるときチヨミにもらったから大丈夫。」
「は?何食べたの?まさか肉?!」
「違うよ、寝ながらも人間て色々頭が忙しいんだね。思考を少しもらえるみたい。けっこうなエネルギー量だね、チヨミの考えって。」
ああ、だからよく眠れたのか。これは有り難いかもしれない。
「じゃあ適当に過ごしててよ。特に大事なものもないから、使いたいものあったら使って。
それと、『いってらっしゃい』って言ってみてくれない?」
サカナは首?を傾げつつ言う。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
プレコの夜 霜月穂 @infrareder
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