第16話 過ぎる疑念
「はぁ……」
ごろん、と再び寝転がり、天井を見上げる。
そこにあるのは、見慣れた天井。変色していて、日焼けの濃いヒノキ。
見知らぬ天井は、あの事故の後以来見ていない。
「それにしても、実際どうなんだろ……」
ここ数週間の疑念。それは、あの事故のきっかけとなった対向車に光里が乗っていたのではないか、というものだった。
実は、あの事故のきっかけとなった対向車はそのまま事故現場から逃げていた。街灯に取り付けられていたゴミの不法投棄防止用監視カメラに、偶然にもあの事故の一端が映っていたのだ。
後から聞いた話だと、対向車は明らかにスピードを出し過ぎており、ハンドル操作を誤ったのではないかということだった。人通りの少ない時間ということもあって目撃者はおらず、監視カメラの画質からはナンバーも特定できなかったため、結局今も誰があの対向車に乗っていたのかはわかっていない。
しかし裏を返せば、あの事故は関わった警察の人や病院関係者を除けば、事故の被害者と加害者しか知らないことになる。新聞にも小さく載ったが、所詮は田舎町の自動車事故であり、そこまで大きくは取り上げられなかった。
つまり、あの事故が今年の来月末でちょうど十年を迎えるということは、かなりの関係者しか知らないはずだった。
そこから導き出した結論が、光里があの車の同乗者、少なくとも近親者ではないか、ということだったのだが……
「でも、まさか、な……」
この三週間、何度も頭に浮かんだ考えを振り払うように、僕は起き上がった。
たぶん違う、と思った。
裏付ける証拠があるわけでもなく、結局のところ想像でしかない。もしかしたら新聞か何かで見たのかもしれないし、僕の顔のやけどの痕から何かしらの理由で事故のことを知ったのかもしれない。小さくとはいえ、一応名前が新聞や地方ニュースに載ったのは事実だ。
そしてなにより、光里があの事故に関わっていると、なぜか思いたくなかった。
「決めつけは、よくないよな……」
もし気になるなら、光里に聞いてみたらいい。その前に、避けてしまっていたこととか謝らないといけないな。
そう自分に言い聞かせ、ふと時計に目をやった。
「やべっ……そろそろ夕飯作らねーと」
祖父は仕事で、いつも帰りが二十時くらいになる。部活にも入っていない僕は夕飯当番だ。
重い腰をあげて制服のまま台所へと向かい、冷蔵庫の取っ手を掴む。そのとき、目にしたくないものが視界に入ってきた。
「うわっ……文化祭の準備、明日からか」
冷蔵庫の前面にマグネットで貼られた高校の日程表には、試験日の翌日、つまり明日のところに「文化祭準備開始!」とやたらポップに書かれていた。
ボランティア遠足の前、みんなで昼ご飯を食べていたときの、光里の言葉が頭をよぎる。
「いきなり、かー……」
流し台の奥にある小窓から、雨上がりの月が顔をのぞかせていた。
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