第11話 ボランティア遠足


 ホームルームの後、僕たちは校庭に集められていた。

 別に予鈴に間に合わなかったからじゃない。校庭には、僕と笹原の他に全校生徒が集合している。

 そしてもちろん、この人数で体育でもない。が、服装は体操服で、背中にはリュック。ここのところ日中は暑いので、風通しの良い体操服は随分と着心地がいい。

 そんな身軽な格好で校庭に集められている理由、それは……


「よーし、全校生徒集まったわねー。じゃあ、ボランティア遠足を始めるわよー」


 三年生の学年主任だかを務めているという先生の声が響いた。

 ボランティア遠足。それは、各学年が別々の目的地までゴミ拾いをしながら歩いて行くという行事。説明以上。


「毎回思うけど、なんで遠足ついでにゴミ拾いなんだろうな」


「さあな」


 隣でぼやく笹原に生返事を送る。

 ちなみに、本来はクラス内で三人一組のグループを作って目的地まで行くのだが、人数とルート数の関係上、僕と笹原は二人で一グループだ。


「俺たちはどこ行くんだっけ?」


「さあな」


「話聞いてる?」


「さあな」


「……お前、天之原さんのこと好きだろ?」


「さあな」


「……あ、この質問じゃダメだ」


 バカか。

 そうこうしているうちに、拡声器を持った年配の先生が前に進み出た。


「えーじゃあ、校長先生から挨拶が――」


 ここで、僕も含めた大半の生徒の意識が別のところへと向く。友達だったり、恋人だったり、隠れてスマホだったり……。

 僕も一割未満の注意を前に向けつつ、昨日の昼食のことを思い出していた。



 昨日、あいつは昼休みのチャイムが鳴り終わるなり、僕たちの教室に駆けこんできた。その手にあったのは、水色の小さな弁当箱と水筒。


「お昼、一緒に食べよー!」


 いつものように、光里は短く笑いかけてきた。

 もうこのやり取りは見慣れたもので、僕たちのクラスでももうざわつくことはない。最初の頃はなにかと迫られたものだが、今では転校初日から想いを寄せているとかいう男子数人以外は「またか」といった感じで流し見している。

 まぁ、僕としても別の意味での「またか」なのだが。


「また来たのか。友達と食べればいいのに」


「あれ? 陽人も友達でしょ?」


「誰が」


「はいはい、お二人さん。貴重な昼休みが減っちまうだろ」


 まるでそれがずっと続いていたみたいに、笹原は近くの机を僕の机にくっつけ、光里は空いている椅子をセットする。

 彼は横にかけてあった布袋から弁当を取り出し、彼女は水色の弁当袋の結び目をほどいていく。

 つい二週間ほど前には非日常だった光景が、既に日常の一部として溶け込みつつあった。


「――でね、明日のボラ遠。私たちの班は十裏川とうらがわ沿いの道から行くから、こことかどう?」


「おー、いいね! 俺たちのルートもその近くだったはず……ん? おい、陽人?」


「え? なに?」


「だから、明日のボラ遠で合流しようぜって話」


「はぁ?」


 聞いてない。いや、確かに文字通り僕が聞いていなかったのだが。


「待て待て、なんのために?」


「そりゃあ、もちろん……」


 笹原と光里が顔を見合わせる。

 ニヤッと緩んでいる二人の口元からして、嫌な予感しかしない。



「「遠足をとことん楽しむため!」」



 また面倒くさいことになったなと、僕は視線を窓の外へと逃がした。

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