奈良の鹿について語る

 ご存じの通り奈良には鹿いる。厳密に言うと、奈良公園に鹿がたくさんいる。


 草食動物なので勘違いされがちだが、鹿は大人しい動物ではない。私も子供の頃、食べていたアイスを横取りされたし、ゴミを漁っている鹿を追い払おうとして、頭突きされそうになった(角切りの後で助かった)。他にも遠足で弁当を盗られた友達もいたし、今年の初詣で春日大社に行く途中、頭突きを食らわされた男性も見た(すぐに立ち上がっていたから大丈夫だと思う)。


 ならば子鹿を愛でようと考える人もいるだろうが、子鹿をかまえば親鹿が警戒する。いや、臨戦態勢になるから本当に危ない。子鹿を写真に収めようと少し追いかけた観光客が、逆に親鹿に追いかけられてしまう現場も見たことがある。もっと悲しいことに、子鹿に人間の匂いが付いたことで親鹿が育児放棄し、子鹿が亡くなってしまうと言う事件も起きている。それで亡くなった、こつぶちゃんの件を最近SNSで見た人もいるだろう。


 奈良の鹿は野生動物、基本的に関わらないのが一番だ。とはいえ、やっぱり可愛いのでちょっと近づいて写真を撮りたくもなるだろう。

 そこで鹿せんべいだ。ご存じの方も多いだろうけど、観光客が鹿に上げて良いおやつだ。アイスをかっさらわれた私が言うのも何だが、鹿に人間の食べ物を与えてはいけない。人が鹿に上げて良い食べ物は鹿せんべいだけだ。鹿もそれをわかっているので、鹿せんべいを購入した瞬間にやってくる。これがなかなか危険だ。うっかり囲まれて、鞄や服を引っ張られて大惨事になることもある。

 私は以前、鹿せんべいの屋台の人に上手な鹿せんべいの上げ方をレクチャーしてもらっている。文章のみでわかりにくい所もあるかもしれないが、ここで紹介したい。


 まず、鹿せんべいを買う前に、周辺に鹿がいない開いた空間を探す。上にも書いたとおり、鹿せんべいを買った瞬間、周囲で見ていた鹿は寄ってくる。1頭2頭ならともかく、東大寺のあたりは危険だ。わらわら寄ってくる。

 だから、鹿せんべいを手に入れたらさっと、開いた空間に向かい、場所を確保する。出来ればその時、鹿せんべいを束にしている紙製の帯を切っておくことをおすすめする。振り返ったらすでに真後ろまで迫ってきている可能性もあるからだ。

 ちなみにこの帯は鹿は食べる。食べさせて良い。たまに大切に鞄にしまう人がいるけど・・・・・・。まあ、記念なのかな? それともレシートの代わり? ちょっとわからない。

 鹿は鹿せんべいをねだるとき、お辞儀をしてくる。これは奈良の鹿だけに見られる特徴らしい。お辞儀をしたら、鹿せんべいを口に突っ込んでやる。おどおどしていたら指を噛まれるので注意だ。同じ理由でせんべいを小さく割ってやるのも良くない。小さいと噛まれやすい。半分までが限度だと思う。

 以前、意地悪をしてせんべいをやらない海外からの観光客が問題になった。お辞儀をしても上げないと、蹴り飛ばされたり、頭突きされることもある。鹿は食い意地が張っていて短気だ。お辞儀をされたらすぐに上げよう。

 そして鹿せんべいがなくなったら、鹿に手のひらを見せて「もう持ってない」アピールをしよう。何もせずに立ち去ろうとしても、鹿は付いてくる。諦めが悪い鹿が絡んでくるかもしれない。これも危険だから、かならずアピールしよう。


 以上が、私が教えてもらった事に、私の経験を追加した鹿せんべいの上げ方だ。

 だが、相手は野生動物だ。これを守っていても何をしでかすかわからない。

 それでも鹿せんべいを上げる行為には価値はあると思う。よく考えてほしい。人間に慣れた野生動物とふれあうことが出来る場所が、この地球にどれほどあるだろう? それに何度も危険と書いたが、ライオンや虎よりは安全な方だ。

 是非、奈良に旅行に来られた際、鹿とふれあい、貴重な経験をしていただきたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とっちらかった脳ミソ 久世 空気 @kuze-kuuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ