最終章「真実」

「くははは! 掛かったな愚か者! この『転生者ごろし』の呪い、昨今の多様化したチート能力に全自動オート対応とまではいかずとも、転生者本人きさまらが『能力』の名前さえ口にすればたちどころに効果を逆算し、呪いを最適化して発動させることがで…… は? ……『どりょく』……?」


 勝ち誇ったようにまくしたてていた魔王は、しかし途中で急に口ごもり、真顔になって僕の目をまっすぐ見返してきた。


「だから『努力』だよ。学習し、予習復習し、実践し鍛錬し、それをひたすら積み重ねることでどんな奥義もいつかは自分のものにできるという、最強の『能力』だ」


 場を支配するのは沈黙。あいかわらず、僕の体にはなんの違和感もない。なんならもう一度城門からここまでやり直してもいいぐらいだ。


「僕はこの世界で物心ついてから何十年、寝る間も惜しんでこの『能力どりょく』を使いやり続けてきた。反転逆流、できるものならやってみろ! なんにも起きないようだけどな!!」


 魔王はただ呆然としている。魔眼もすっかり弱火だ。おそらく、僕の『能力』のあまりのすさまじさに、完全に心が折れたのだろう。


「……そうか……呪いなど効くはずもない……貴様はそもそも特別チートな『能力』など与えられていない、どこぞの女狐に踊らされた思い込みの激しいただの阿保だったというわけか……」

「おい女狐とか言うな、あのお姉さんに失礼だろ! どちらかと言えばタヌキ顔だったし!」


 阿呆呼ばわりされたことより、お姉さんを不当におとしめる発言にカチンときて、つい手に力が入ってしまった。突きつけていた聖剣(ちなみにこれも僕自身が数年掛かりで必死に鍛え上げ祝福したものだ)の切っ先が、喉にプスッとほんのすこしだけ刺さる。


――ところで。そもそも魔族は物体よりも精神寄りの生命体である(このへんも皇立図書館に籠って勉強した)からして、心が折れた状態ではきわめて脆弱な存在になるのだという。


 その一刺しがクリティカルヒットしたのだろう。魔王の巨体は、さらさらと砂のように崩れ落ちた。



(おわり)

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異世界転生した僕が魔王を倒すまでの、よくある物語。 クサバノカゲ @kusaba

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