第三章「謀略」

 そしていま、激闘の末に玉座まで追い詰められた魔王は、聖剣の切っ先を喉に突きつけられたまま、僕に疑問を投げかけてきたのだ。


 その巨体は、玉座に深々と腰を掛けた状態でもまだ僕より目線が高い。


「なぜって、何がだ?」


 僕は魔王に聞き返した。なぜこんなことをしているかと問われたら、それはあのお姉さんにお願いされたからとしか答えようがないのだが、それはちょっと照れくさいので早急に他の理由を考えなくてはならない。


「いいか、よく聞け。この部屋には、異界の魔女との契約で『転生者ごろし』の呪いを掛けてある。ゆえに一歩でも足を踏み入れた転生者どもは、これまで頼ってきた『能力』が反転逆流し、みな自滅していくのだ!」

「えっ、そうなの?」


 慌てて体のあちこちに意識を向けてみるが、どこにも違和感はないようだ。しかしここに至って魔王が無意味な嘘をつくとも思えない。


 じっさいのところ魔王はそこまで強くはなく、六本腕の暗黒騎士のほうがよほど強かった気がする。にも関わらずこれまで多くの勇者たちが敗れ去ってきた、その理由として「呪い」の話は納得のいくものだ。


「貴様も転生者だろう! なぜ平然としていられる!?」

「知ったことか。僕はずっと、授かった『能力』を最大限フルに活用してきた。今もそうだ」

「くっ…… このままでは死んでも死にきれん! 頼む最後に教えてくれ! いったい貴様の得た『能力』はなんなのだ!」


 五つの魔眼すべてから、先刻までほとばしっていた炎のような戦意はすでに喪われている。こうなってはもう、何かを謀ることもできはしないだろう。


「……教えてやろう。たしかに僕は女神様……かな、たぶん? とにかく、あのめちゃくちゃ可愛いお姉さんから授かったありがたいチート能力を使い、この世界における剣術、攻撃魔法、治癒魔法の奥義すべてを極めた。その『能力』の名は――」


 剣と魔法による嵐の如く絶え間ない連撃、そしていかなるダメージも神聖魔法で自己治癒してしまう僕の恐ろしさを、今しがた身をもって味わったばかりの魔王は、長めのタメにごくりと生唾を呑み込む。


「――『努力』だ」


 僕が堂々と言いはなった、その瞬間。魔王の口元は邪悪な笑みの形に歪み、五つの魔眼には紅蓮の炎が再燃する。


 ああ、これはまずい。僕は敵の策にまんまと乗せられてしまったのかも知れない……!

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