イマドキのサンタクロース

宇佐美真里

イマドキのサンタクロース

ついに今年も残すところ、あとふた月足らず。

いつものとおり、この小さな建物の中では、恒例の評議会が催されようとしていた。


   『世界サンタクロース協会』


World Santa-Claus Association…略してW.S.A.と呼ばれる。

世界各国から集まった各地区のサンタクロース二十五人による評議会。

毎年クリスマスを前に、最終の打ち合わせが、この小さな会議室で為されるのである。


サンタクロースといっても、今のご時世どうしたって…組織化されてはいるが、世界の良い子たちの為に集まった同志たちだ。

当然、参加資格はサンタクロースに限る。

世間でイメージされているような昔ながらの、でっぷりと太ったほんわかサンタクロースから、縁なしメガネを掛けインテリジェンスを漂わせる新しいタイプのサンタ、若いサンタや女サンタまで様々だ。

勿論、協会は非営利団体。

出来るコトなら全ての子供たちにおもちゃを配ってあげたいところだが、なかなかそうもいかない。


つまりサンタクロースは本当に居るのである。

ただ…、このW.S.A.から認定を受けられない『イケナイ』子供たちには…その子のお父さん、お母さんが、おもちゃを自前で用意しなければならない。

そんな子供たちがあまりにも多いので、「サンタなんて、居ないよっ!」ということになってしまうのである。世の中、世知辛いものだ…。


「最近のおもちゃはどれも難解になったもんだよ…。

 それにピコピコと音ばかりうるさくて適わなん!」

「わしも歳だのぅ…。寒くなってくると腰が悲鳴をあげるようになった…」

「お互い歳はとりたくないもんだ…。あんたも、頭がだいぶ寂しくなったのぉ…」

年寄りサンタのぼやきは延々と続く…。


「静粛にっ!静粛にっ!!」

議長サンタが声を荒げて言った。

「まずは、品種改良による新種のトナカイの状況を説明して下さい」

協会に参加している『アカハナ・ファーム』の職員が立ち上がり、説明を始める…。


「だいたい、ハロウィンが台頭してきてキャンディ!キャンディ!と

 最近では七面鳥の存在もだいぶ怪しくなってきたんだってさ」

「ウチの地区は過疎化が進んで、子供たちの数が今年は142人も

 減少しているんだよ…」

中堅どころのサンタたちは割りと熱心に語りあうが、やはり新種のトナカイのことなど、全く興味がない。


議題はトナカイの話題から、途中でのおもちゃの補給経路に替わっていた。

『トナカイ・エクスプレス』の担当官が立ち上がり説明を始める。

「えぇ~。今年の初めに全世界四社の航空会社で、フライトスケジュールが変更され、飛行機の飛ぶ空路も若干変更がされています。それに伴い、我が社の補給トナカイも待機地点の変更を余儀なく…」


「うちの旦那が転勤するコトになって、来年は南半球地区に私も転属なのよ…」「あら?!いいじゃない?!私、一度サーフィン・サンタもやってみたかったのよね」「でも、この歳にしてサーフィン始めるっていうのもねぇ~」女サンタたちは、もはや井戸端会議だ…。

「あ…。知ってた?北米地区の最年少の子に赤ちゃん出来たんですって!」

「あぁ…あの子ね?!私、一度だけ会ったことがあるのよ~。本当に可愛い子だったわ!」「それでね?問題なのは彼女のところって、夫婦してサンタでしょ?!生まれたらこの時期、赤ちゃんどうするかで困ってるみたいなのよ…」「まぁ!大変…。北米地区って保育施設がこの前閉鎖され…」


「そこ!ちゃんと聞いてるんですかっ?!」

議長は顔を真っ赤にさせて怒鳴り続ける。

一瞬だけ会場は静まるが、またすぐに元の騒がしさに逆戻り。

痩せぎすの黒縁メガネのサンタ議長は、大きく肩で溜息をついた…。

その時…。


     バンッ!!



机を叩く大きな音が、狭い会場に響き渡り、一瞬にして波を打ったように静まりかえった…。

「やれやれ…。どうして毎年こうなのかねぇ~?もっと、しっかりして欲しいもんだよ…」


ふぅ~と、かなり太めの肝っ玉サンタかあさんが、深い溜息をつきながら言った。

「まったく進歩がないったらないねっ?!」

評議会をまとめられなかった議長サンタが苦笑いしながら頭を掻いている…。


「まぁ、ナンにしたって、アタシたちは年に一度の大イベントのために集まってるんだろっ?!難しい話はなしにしておくれっ!良い子の嬉しそうな笑顔が見たくて、アタシは続けてるんだ!それで充分じゃないのかいっ?!」

年寄りサンタも、新米サンタも女サンタも…みんな一同に、肝っ玉サンタかあさんを見つめた。拍手喝さい!一致団結!!


こうして今年も、サンタたちは聖夜の夜に、良い子の枕元へとおもちゃを配ってまわるのだ!無邪気に喜ぶ子供たちの姿を想像しながら…。


イマドキのサンタクロースたち…。

今年もトナカイの鈴の音を響かせて、笑顔で夜空を飛びまわる…

ハズである。



-了-

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