第26話:二度目の人生で(終)
直前に寝込みそうになりながらも、ようやく城へ足を踏み入れると待ち構えていたようなレオンの声がした。
「アンジェリカ!」
「レオン!」
オレは手探りでレオンを探した。
「身体の調子はどう?」
「大丈夫だよ」
オレは安心させる為にそう言ったのだが、フランクが横槍をいれてきた。
「レオン。さっきも言ったけど、まだ本調子じゃないから手短に」
「わかった。アンジェリカ、こちらへ」
オレはレオンに導かれて、しばらく歩いた。
「ね、レオン。お腹を刺されたって聞いたけど大丈夫なの?」
「ああ、君の助言を受けて肌着代わりに鎖帷子を着てたんだ。同時に頭も殴られてしまったから、しばらく立てなかったけどね」
「まだ痛い?」
「ううん、本当に助かったよ。アンジェリカ」
レオンは急に立ち止まった。
「皆、注目!」
「え……?」
「ここにいるアンジェリカ・ゴウルは私の双子の妹だ。彼女の手をよく見るように!」
え? 双子?
今、なんてった?
「……レオン……?」
「さあ、手を出して。アンジェリカ」
レオンの声と共に、丸くてすべすべした懐かしい感触の何かを握らされる。
すると。
……おおおおお!!
どよめきが巻き起こった。
「見ての通り、彼女が輝石の次期継承者だ。皆、わかったな?」
いやいや。
オレには全然わからない。
どういう事? 誰か説明してくれ!
急に頭から血の気が引いて、オレはレオンの方へ倒れ込んでしまった。
「アンジェリカ。大丈夫かい?」
「わたし、あなたの妹なの?」
「そうだよ。母の従兄弟でもあるリンデール卿から質問を受けて、母に確認したんだ。生まれたばかりの君を『王家の双子は不吉だ』といって父が手にかけようとしたらしいんだけど、こっそり母が子供のいない夫婦に預けて、君を死んだことにしたんだって」
へー、そうなんだ。
そういえば、寒い吹雪の日に女性に抱かれてたっけ。
だから、リンデール卿の姪がオレに似てるのか。
なんて感心してる場合じゃない。
「それにしても。君が持った輝石が光ったのを見たマルスから……何か聞いたんだろう? 違った?」
という事は、あの水晶玉が輝石か!
確かにあの日、マルスと出会ったが……。
騙したな、こんちくしょう!
「輝石が……光るって……わたしには、よく、わからない……どういう事? レオン」
オレの呟きを、どう解釈したのか分からないが、レオンは説明し始めた。
「マルスには不思議な力があってね。ただの石ころを輝石として光らせる事が出来るんだよ。アイツは最後にとても上手くやってくれた。もっと上手くやって、生きていてくれたら最高だったのに……詰めが甘いんだ」
レオンの声は少しかすれていた。
本当だ。
本当にオレは詰めが甘い。
「ね。わたしが返した本物の輝石は、あなたが持っていたの?」
「そうだよ。全てが終わった、その時に皆に見せるつもりだった。でも、真の王が誕生する前に謀反人たちをのさばらせておく訳にはいかなかったからね。私には輝石を光らせる事が出来ないから、皆を騙した事になるけれど……すぐに君を城に呼んで紹介するつもりだったんだよ」
で、オレが妊娠してると判明して、今になってしまった……と。
大体、わかった。
「マルスは……君の事を女神だと言っていた。君のお陰で人生が変わったってね。私もそう思うよ」
「マルスに会いたいよ……。レオン」
「こっちだよ」
レオンに導かれて、歩き出す。
そして。
オレは、オレの遺体に触れた。
すると。
遺体から何かがやってくるのを感じた。
全身を回って、やがて下腹部へ。
「アンジェリカ。君の王冠だよ」
オレの遺体がしていたであろう冷たいものを、レオンが手渡してきた。
「王はあなただよ。レオン。その為に、わたしはここにいるんだよ」
その為にマルスであるオレも死んだのだから。
「でも、アンジェリカ……私では輝石が光らないんだよ」
「誰か、輝石をここへ!」
オレが叫ぶと、誰かが丸い石を握らせてくれた。
「この輝石が光った者が次の王位を継ぐ! この場にいる者、全てが証人となるだろう!」
「アンジェリカ?」
「レオン。手を出して」
「しかし……」
「いいから手を出して」
この時の為にオレの暗示の力はあったのだ。
その事に、今更ながら気がついた。
レオンの手のひらにしっかりと輝石を握らせて。
レオンの手と輝石、そしてオレの手が重なる。
『今、レオン王子の手の中に輝石がある。輝石の輝きをしかと見よ!』
オレはありったけの力を込めて暗示をかけ、手を離した。
……おおおおおおおお!!
「レオン王子の手の中で、輝石が光った!」
遠くで近くで、物凄い歓声が聞こえた。
気付かなかったが、一連の事を沢山の人たちが見ていたらしい。
「ここにアウルム二十一世、レオン王誕生とする!」
ここでアルフレド・メナスが厳かにそう述べて、拍手が巻き起こった。
「これは……一体? アンジェリカ、何かした?」
当然の事ながらレオンは戸惑っていた。
「それより。少し屈んでくれる? わたし今、背伸びできないんだ」
「ありがとう。アンジェリカ」
こうして、オレは――二度目の人生でやっとレオンの頭に王冠を載せることが出来た。
「レオン王だ!」
「レオン王、万歳!」
皆がレオンの王位継承を祝福した。
「ごめんね。フランク」
「何で謝るんだい? 君の敵でもある忌々しいジン・ベイスをこの手でぶちのめしたし。望み通りにレオンが王になった。そして何より君と結婚できるし、子供が生まれる。唯一の心残りはマルスの事だけど……それ以外は最高の気分だよ!」
フランクは、そう言って心底マルスの事を悲しみ、そしてオレやレオンの事を喜んでくれた。
アウルムに新しく誕生したレオン王は、国の混乱を速やかに鎮め、しっかりと国の基盤を作り上げた。
そして、早々に引退して次期王にフランクとアンジェリカの第一子であるマルスを据えた。
「ようやく肩の荷が下りたよ」
「もう一つ、大きな仕事が残ってるでしょ。兄さん」
オレはレオンに笑顔を向けた。
「そうだった。キラ。私と結婚してくれますか?」
レオンはキッパリとそう述べた。
「勿論! 喜んで!」
待ってました、とばかりのキラの声。
「王妃なんて柄じゃないから、この時を待ってたのよ~。待った甲斐があったわ!」
こうして、レオンとキラは結ばれた。
終わり。
陰と陽 宙夢 @hirom115
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