【異世界ラーメン屋】② ラスト
「大将、頭に角が生えた今の。でっけぇトカゲみてぇなのは?」
「そうか、与太郎には大家も言っていなかったか。そりゃそうだな話していたら面接に来なかったかも知れねぇからな……実はな、この店は異世界と繋がっている【異世界ラーメン屋】なんだよ」
「【異世界ラーメン屋】? あの近ごろラノベとか言う、やたらとタイトルが長いノベルとかで流行っているアレですか……転生したりする、するってぇと大将も一回死んで生まれ変わっているんですかい……南無阿弥陀仏」
「勝手に人を殺すな、オレは死んで異世界に転生なんかしていねぇし。召喚もされていねぇ……時々、この店には異世界からの客も来るんだ」
「化け物が現れるんで?」
「お客を化け物とか言うな! 確かに一つ目の客とか、下半身が馬の変わった客も来るが。異世界の住人だろうとなんだろうと、ラーメンを食べに来てくれる。ありがたい客に違いはねぇ……おっと、もうこんな時間か。ちょっくら用事があるから出掛けてくるから、店番していてくれ……この時間なら、客も来ねえだろうから」
「万が一、客が来たら?」
「『あいすみません、ただ今、店の主は留守をしておりまして……すぐに戻ると思いますが、お急ぎのお食事でなければ、チャーシューと煮た玉子を盛り合わせ皿を無料サービスでご用意しますので、そちらをお食べになってお待ちください』と、言って引き留めておいてくれ……二品皿は冷蔵庫の棚に用意しておくから……それじゃあ、ちょっくら小一時間ほど、ご隠居のヘボ将棋につき合ってくる」
「行ってらっしゃい……行っちまったよ、大将も大変だね。老い先短いご隠居の余生将棋につき合わされて──さてと、冷蔵庫の中にチャーシューと煮玉子の皿があるって言っていたな……おっ、あったあった。ちょっとご賞味を……美味いねぇ、この店はチャーシューと煮玉子だけでもっている店だね、麺とかスープはどうでもいいや」
与太郎が、つまみ食いをしておりますと。店の扉が開いて暖簾を手で押し上げて若い女の客が入ってきました。
「(エルフ、暖簾を片手で持ち上げながら)もし、店はやっているでありんすか? 『ら~めん』なるモノを所望でありんす」
「おや、尖った横耳のいい女が客で来たね……弓矢を持っているってコトは、あれが異世界のエルフの狩人ってやつかい……あいすみません、店の主はただ今、留守に……」
「わかっているでありんす……この時間は、いつもなら『準備中』の札が出ているでありんす……お大尽が作る『ら~めん』を食べてみたいでありんせ」
「尖った耳を除けば人九一化で太モモを丸出しの、花魁の高尾太夫みたいなイイ女から、お大尽って言われちまったよ……へへっ、そんなコトを言われりゃ悪い気はしねぇな……よしゃ、オレが『ら~めん』作りますから、好きな席に座って待っていてくだせぇ」
「待つでありんす」
「この店のラーメンの作り方は、いつも大将がやっているのを見ているから覚えちまった『門前の小僧習わぬ経を読む』ってやつだな『ラーメン屋に通い食べる与太郎、習わぬラーメンを勝手に作る』ってな具合だな……これをこうして、麺をザルみたいなのに入れて茹でて、スープはどっちだ? まぁ、適当でいいや……具のチャーシューは、サービスでステーキ並みの厚さに切って乗せてと。丼から厚切りのチャーシューがはみ出てやがる、煮玉子も五・六個丸ごと入れちまえ……麺がチャーシューと煮玉子で見えねえ……豪勢なラーメンだね、へいっお待ち」
「頂くでありんす……ちゅるちゅる……ちるるる」
「上品に食べるねぇ、ラーメンを食べるエルフなんて初めて見た」
「ごちそうさまでありんす……なんでありんすか? その手は?」
「何って、ラーメンのお代を」
「こっちの世界のお金は、持っていないでありんす」
「無線飲食かい」
「お金の代わりにこれで支払いを」
「なんだい、小袋の中から綺麗な小石が出てきた?」
「異世界の宝石でありんす……これを代金に、こちらの世界では家が一軒買えるくらいの、価値があるでありんす」
「家が一軒!? わかりやした、これでラーメン代は結構です。お気をつけてお帰りください、ありがとやんした……帰って行ったよ、へへっ適当なラーメン一杯作って出しただけで宝石もらえるなんざ、異世界のラーメン屋も悪くねぇな……おや? また、お客が来たようだ」
「ごめん、『ら~めん』なる食べ物を所望いたす……早速作れ」
「なんだぁ、ヒゲづらで背中にバカでかい剣を背負った大男が入ってきて、勝手に店の椅子に座っちまったよ……異世界の戦士ってヤツかい」
「どうした、客にら~めんを出さぬか……腹が減っておる」
「ずいぶんと横柄な態度のヤツだね……こんなヤツにラーメン作りたくはねぇな」
「厨房に立ち尽くしている、お主はカカシの類いか。冷水を出さねば、勝手に飲むぞ……麺の固さは極めの固さを所望する」
「うちは水はセルフサービスですよ……しょーない、ラーメン作ってやるか。ムカつくからスープの丼に塩の塊放り込んでやれ、具のチャーシューも向こう側が見えるくらい薄く切って乗せてと、煮玉子も四つ切りにして二切れだけ……こりゃまた貧相なラーメンが出来ちまったね……へい、お待ち」
「うむっ……ズルッ、ズルルルルッ……少し塩辛いが美味、美味」
「ずいぶんと豪快な食べ方だねぇ」
「馳走になった……代金はこれで(戦士の大男、持ってきた布包みをテーブルの上で広げる)」
「布包みの中から、漬け物石みたいな大きさの、異世界の宝石が出てきたよ……へいっ、これで結構でございます。お気をつけてお帰りください……異世界に帰って行ったよ、異世界の客相手のラーメン屋ってのも悪くねぇな」
与太郎がテーブルの上に並べられた宝石を眺めていますと、ラーメン屋の店主がもどってきました。
「何か変わったコトは無かったかい?」
「異世界の客が二人来ました、エルフの女とヒゲづらの大男の客が」
「客が来た? それでどうした?」
「オレが作ったラーメンを美味そうに食べて、代金の代わりにこの宝石を……」
「(店主、置かれた宝石を見て)あちゃ…………やられたよ、おまえさんに最初に話しておかなかったオレが悪いんだがな、異世界の客が置いていった石は、あちらの世界にはゴロゴロ落ちている普通の石だ……前に鑑定してもらったが、二束三文の価値もねぇ、その辺の石コロと同じだ」
「騙されたんですか? 異世界にも悪いヤツがいるもんで」
「おまえさん、お客の顔は覚えているかい?」
「もちろんでさ」
「それじゃあ、悪いけれど……ちょっくら異世界へ行って、踏み倒されたラーメン代を異世界の、良い魔王からもらってきてくれ……これこれ、こうゆうワケだと良い魔王に相談すれば、食い逃げしたエルフと戦士に説教して、二度とこちらの世界で食い逃げをしないように。取り計らってくれるから……少しばかり長い旅になるだろうが」
「ラーメン代をもらいに、オレが異世界クエストですかい? 大変なコトになっちまったなぁ……でもオレ、異世界なんて一度も行ったコトねぇから、どんな世界なのか不安で」
「な~に、心配はいらねぇ……異世界だけに、いい世界にちがいねぇ」
お後がよろしいようで。テケテンテン
異世界ラーメン屋~おわり~
【異世界ラーメン屋】〔創作落語〕 楠本恵士 @67853-_-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます