じゃあな
すずりを病院に送り届けて、拓と佐田は車に乗り込んだ。
「穂積すずりって本名だったんだな」
佐田が拓に言うでもなしに言った。
「表札と違ってたな」
拓は暗くなった外の景色を見ながら、無言で頷いた。
◆
見慣れた実家の風景が近付いてくると、旅も終わりという雰囲気になった。
「また姉さんのお見舞いに一緒に行こう。それまでしばらくのお別れだ」
佐田が寂しさを隠すように、唐突に言った。うん、と拓が頷いた。白バンのエンジンは唸りを潜めた。
「じゃあな」
佐田が手を振って、降ろした拓に手を振って車を出発させた。周囲は暗く、街灯が瞬いているだけだった。外から見た実家は暖かい電灯が窓から漏れており、とてもしあわせそうな家族が暮らしているように見えた。
拓が呼び鈴を押すと、間延びした母の声が玄関から聞こえた。
ドアが開く。
「ただいま」
(終)
新しい日 江戸川台ルーペ @cosmo0912
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