リペアテレサ、その正体3


 扉に手をかけて、今にも扉の向こうに飛び込もうとする結城陸斗に、メアリーがこう引き留めた。



「陸斗。ご注意ください、中に熱源の反応があります」


「熱源? バッテリーパックとかガスコンロとかか?」


「ノー。約三六℃の熱源、つまり人間です」


「……いくつある?」


「はい陸斗、一つです」



 躊躇しても仕方がない。


 警備員一人くらいならば問題ない。こちらには文字通りチートみたいな存在のメアリーがいる。セレナが全力を振るえない状態ではあるが、代わりにメアリーがいれば大抵は大丈夫だ。


「よし、ゼロで行くぞ」


「はい陸斗。ゼロです」


「あっ、ちょっ、それは予想外だ!?」


 ダンッ‼ とメアリーが両開きのドアの片方を開けてしまったので、少年としても行くしかない。

 そしてまたもや予想外の光景が広がっていた。


「……ふむ。定刻通り、か」


 ゆるりと椅子に腰かけるのは、金髪碧眼の少女だった。


 年齢は陸斗よりも少し下。


 肩までの長さで綺麗に切り揃えられた金色の薄い髪を揺らしながら、その少女は腕時計から目線を上げて立ち上がる。研究所にいるという事は科学者であるはずなのに、彼女はノースリーブのドレスを纏っていた。


「やあ。少し話をしないかい」


「……アンタは?」


「『マザーテレサ』。この名前に聞き覚えはあるかね? あるのであれば、君に話は通じるだろう」


 彼女は陸斗の返答など気にしていないようだった。


 それどころか、金髪碧眼の少女は陸斗よりもメアリーの方に興味深そうに視線を投げている。


「そして君としても聞きたいだろう? その女の形をしたマシンが一体どういう目的で作られたのか」


「……なに?」


「だからほら、呆けていないでこっちにおいでよ。座って話をしようじゃないか。コーヒーか紅茶、どっちがお好みかね」


「……じゃあ、コーヒー」


 どうやら敵ではなさそうだ、と一応の情報をインプットする理系高校生。


 そして少年は礼儀知らずではないつもりなので、自己紹介だけはしておく事にした。


「俺は結城陸斗、こっちはメアリーだ」


「陸斗。なぜ私の名前はフルネームではないのですか」


「長ったらしくて正直あんまり覚えてないからだよ」


 一方、金髪碧眼の少女は、椅子にかけていた白衣を手に取り、袖に通しながらこう返答してくれた。


「私はフェリネア=グラフィック。……短い付き合いになると思うがどうぞよろしく」




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