リペアテレサ、その正体2
心を抉ってくる言葉に一喜一憂している場合ではない。
研究所の中に、ついに踏み込む。
が、ここでも問題が発生した。
「……あれっ、開かない」
『ええボス。扉はデジタルロックではなく、原始的なアナログ錠です』
「お前アナログ錠を原始的とか言うとある業界からお叱りを受けるぞ!? くそっ、開かないならどこかの窓を割って侵入するしか……」
「ノー。陸斗、窓を割る音が警備員を呼びつけてしまう可能性があります」
「だったらどうしろっていうんだ」
「一言お願いしますと言えば助けてあげない事もないですよ」
「誰のせいでこんな事になってると思ってんだ!?」
『ボス。冷静に参りましょう。心のこもっていない言葉ごときで事態がスムーズに進むのならば安いものです』
「ちい‼」
警備員を呼びつけてしまうかもしれないほど大きな舌打ちを一つ。
そして理系高校生は涙を飲んだ。
「……メアリーさん、お願いします助けてください」
「もう一声」
「メアリーさんの優秀なデータによる助けが必要なんです、何もできない俺を助けると思ってお願いします‼」
「はい陸斗。そこまで言うのならば仕方ありませんね。無能で残念の一言に尽きる陸斗を嫌々ながらも助けてあげましょう」
生意気な0と1の意識に崩れ落ちる結城陸斗。
だが彼はスマートフォンの接続が悪いからといってデバイスをぶっ壊すほどガキではないつもりなので、ぐっと堪えて事の行く末を見守る事にする。
メアリーが扉の前に立つと、白い髪の毛が静電気で逆立つようにざわりと蠢く。
「おい……っ?」
「ご心配なく。微細な隙間から建物内に髪の毛を侵入させ、物理的にロックを解除するだけです。窓を割るよりは建設的でしょう」
言うが早いが、ガチャリという音がした。
そのままロックが解除された扉を押し、メアリーがエレベーターのガイドさんみたいに無表情で言う。
「開きました」
「まずいな、セレナよりも優秀っぽいぞ」
『ボス。聞き捨てなりませんが?』
自作した秘書に叱られるほど虚しい事はないので、スマホをポケットにしまってから研究所の中へ。
とはいえ、怪しいものも不思議なものも、特に何もない。
そういう風に工夫しながら進んでいるのだから当然である。
「……センサーで周囲の探査完了。やはり警備員はかなり少数です。鉢合わせる可能性は二・五%以下でしょう」
「ならこのまま進もう」
もはやセンサーだとかにツッコむのにも面倒臭い。
今はレアメタルだ。
「このまま一〇〇メートルを直進、左に進めばレアメタルがあると思われます」
「よし」
陸斗の研究所見学の際の記憶とも合致している……と思う。何せ来たのは子どもの頃の話だ。記憶が曖昧になっていて当然なのだ。
「とはいえ、割と記憶通りだな。もう少しで扉があるはずだ」
「陸斗、あれではありませんか?」
メアリーが闇の奥を指差す。
言われた通りだった。
大仰な両開きの扉が待ち構えていた。
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