Ep.2 犯人が分かっても
知影探偵はわなわなと手を震わせている。そして、壁に寄りかかって今にも泣きだしそうな赤葉刑事の方を何度もちらちらと見ていた。
「それって……それって、つまり……つまり、赤葉刑事の友達が友達を殺したってことになるんだよね……? 強盗殺人じゃなくて……」
友達が犯人。それだけでも相当辛いことがあるのは知っている。加えて、友達が友達を殺害した事実。赤葉刑事にとっては非常に心苦しいものとなるだろう。
だから、今の事実に関しては最後まで彼女には秘密にしてもらいたかった。まだ本当に犯人かどうかは分かっていないから。
「ええ……そう思ってしまうんですよね……」
「で、でもまだ推測の域なんでしょ……? 疑わしいってだけで……」
「ううん……まぁ、そうですよね……」
けれども僕の推測が間違ってはいないような。赤葉刑事には悪いのだが。
考えた時点で渋いスーツの刑事に新米っぽい短髪の警官が報告をしていた。
「
「そうか……ということは外部犯の仕業か」
いきなり強盗犯が外部犯であるとの情報が出てきた。そこから知影探偵が状況を思い出し、鴨月さんの無実を力説し始めた。
「ほらほら! そうだ! 強盗犯が刺してから一回もこの人は警察が来るまでドアを開けてないわ! 強盗が入口のドアを開けたまま犯行に及ぶ訳ないし……!」
「開けてない? あの実況中継っていつからいつまで聞こえてたんですか?」
「ワタシが聞いたのは強盗犯が被害者を刺した瞬間だったと思う。『助けてくれ、やめてくれ』との声が聞こえてきて……それから……だったかな。その間は全く鴨月さんは外へ出てないんだ……電話を切ってから来るのはすぐだったし……外に出れたのは彼女だけだと思う」
「ううん……」
「納得できないの?」
どうしても理解ができなかった僕は報告してきた警官に質問することにした。
「あの……ちょっといいですか?」
「ん? 君は」
「あっ、いや……別に。ちょっと被害者の死ぬ間際を聞いてたので、何か情報があればお役に立てるかもしれないと……」
探偵役になりたくはない。ただ赤葉刑事をこのまま放っておく訳にもいかない。彼女の友人が犯人であるならば、それを暴いて彼女の心を何とかしなければ。
お世話になっている彼女を何も知りませんと言って逃げることはできなかった。
警官はすぐこちらに尋ねてくる。
「どんな情報が欲しいんだ?」
「そのナイフとジャンパーは何処にあったのかっていうの、ですね。ここから投げられる場所にあったのか……ってことで……ベランダから正面の場所とか、ですか?」
ベランダから投げられる場所にあれば、ドアを開けなくても良い訳だ。強盗犯がベランダから逃げる音と称して、自分が凶器を処分できることは可能なはず。
糸でも付けておけば、少し遠くでも運ぶことはできる。糸を二つ使って、一つをこのアパートの一室と凶器を処理する場所を繋げておく。もう一つの糸は凶器に巻き付けておく。そしてそのままロープウェイにする。
さすれば、重力によって凶器は目的の場所に運ばれる。残る糸の処理方法だが。凶器に巻き付けたものであれば、水で溶けていく。ロープウェイのレーンに使う方はこ強い糸でないと作用しないのだが。勢いよく引っ張って回収し、水道管にでも流せば証拠隠滅ができる。
問題はそのトリックが使えたか。
「ベランダから……裏だね。どぶ川の蓋が外れてるのを発見して、そこを見たら入ってたって訳だ」
スマートフォンのマップでも説明してもらう。確認してみると、どうやら糸のトリックも難しい場所にあるようだ。
糸のトリックを使ったことが分かれば一発で鴨月が犯人だとバレてしまう。処理をするにも時間が掛かるし、凶器が糸に繋がれて宙を浮いているのが誰かに見られてしまったら。
結構な人通りもある場所だ。誰かが見ていてもおかしくない。そんな証言も何もないことから、糸を使った可能性は限りなく低いだろう。
なら、犯人は外部犯なのか。
「……ううん」
そう考えていたところで、誰かが見つめてきた。
目に映ったのは刑事の姿だった。飛鳥警部と呼ばれた彼の姿。彼は僕と知影探偵を注視している。
「……二人共、探偵か」
突然の質問に対し、知影探偵はすぐ笑顔で肯定した。
「はい! そうです!」
どんな扱いを受けるのか。絶対に自分は悪い対応はされないだろうと自信満々の様子で答えている。
逆に僕は自身を探偵だと認めたくなかったからか、変な反応をしてしまった。
「いや……その……あの」
完全なる不審者だった。ただ、彼は別に僕達を追い出すことはしなかった。
「証拠品に触らないなら、好きにしろ……。桂堂の言ってた探偵か」
「あれ、僕達が邪魔とかではないんですか?」
「別に、だ。まぁ、邪魔だと思う奴もいるが。別に。自己責任だ。自分の命は自分で守れ。以上だ……それとそっちの男、ちょっとこっちに来い」
「ぼ、僕!?」
僕を男呼びする人に出会うことはそうそうない。だから一瞬僕なのか違う人なのか。戸惑ったのだが。鴨月さんは奥の方で警官に事情を話している。他の警官ならば名前で呼べばいい。
僕しか男呼びされる人はいないということで、早速彼についていく。
知影探偵は赤葉刑事に寄り添っているとのことで、僕に告げる。
「ワタシは付いていかない方がいいね。こっちで赤葉刑事を落ち着かせてるから……」
「お願いします……」
僕は外へと連れ出されることとなる。
「おい」
「な、なんですか……」
顔が怖いから、威圧的。しかし、僕を邪険にする訳ではなかった。
「聞きたいことがある。お前もあの事件の犯人は鴨月だと思ってるのか?」
「えっ、あっ、まぁ……怪しいと思って……」
「だな。だからこそ、さっきの質問をしてたんだろうな」
僕の話していたことから鴨月が犯人ではないかと疑っていることに気付いたらしい。僕がこの人はどんな人間なのかと用心と想像をしている合間に話が飛んでくる。
「俺自身もアイツが怪しいと思っている……別に強制的じゃない。面倒なら断ってくれてもいい……鴨月について少し調査をしてほしい……って形だな。この顔だとまともな証言も取れなくて、だな……」
「あっ、えっ、はっ、はい……頑張ります」
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