Ep.2 刑事と探偵

 影山刑事は首を傾げて、唸っている。それからボヤくかのようにアズマとの関係を明るみにする。


「同じく探偵と刑事の関係だったな……と言っても、本当にアイツは自分の方が上だと思っている。まさに自分が世界の中心に立たないと気が済まないような人間だ。被害者遺族のことなど関係なく『真実のため』を理由にして、人を傷付けていった……」


 真実のため。まるっきり僕と一緒ではないだろうか。また少し自己嫌悪をしてから彼に向き直る。


「真実のためって本当、それだけのために人を傷付けて……それで真実が分かるなら、分からない方がマシじゃないかって……」

「君もどうやら傷付けられた側だったんだな……本当にすまない。ボクの優柔不断なところがアズマを助長させたかもしれないな……」

「影山刑事は頼ってたんですか?」

「まぁ、頼らざるを得ないな。事件はとめどなく起きて、それを解決しなきゃいけなかった。そうしなければ、街の人は眠れもしなくなる……だから警察は正義のために彼を雇い続けるんだ……早く知影探偵や宮和探偵、君みたいな、人のことを考えられる人間が探偵として活躍できるようにしたい」


 僕も探偵として数えられているのは納得いかない。と言っても、ここでああだこうだ言っても話は進まない。

 影山刑事に抗議するのはやめて、彼に問い掛けていく。


「で、何かヒントとかはないんですか。そのアズマを捕まえるための話とか……」

「残念ながら……ない、な」

「は、はい……」


 また空振りだ。宮和探偵の時も期待してしまった分、何もないと分かった時の衝撃が少なからずあった。今度は何も願わなかったのだが、心に来るものがあった。

 溜息を一つ。直後に彼からアドバイスのようなものが飛んできた。


「かといって、まだ手掛かりがない訳じゃない……手掛かりはな……」

「えっ?」

「警察の中でもその探偵優遇派という派閥ができているんだ。だから、探偵が殺人犯だとしても無理矢理……それを庇っている可能性もある。アズマの行方を追うふりをして、彼の逃亡を手助けしているって可能性もあるんだ……」


 何だか重い話になってくる。少し予感はしていた。嫌な感じはしていて、本当はそうではないのかもと思いたかった。

 他の人から言われてしまうと、その考えを心の中を侵食していく。

 

「やっぱり警察組織も……いや、警察の中にも影山刑事や赤葉刑事……まぁ、ついでに陽子刑事みたいな人はいるから……敵だらけってことはないでしょうが……」

「陽子って駿河さんのことかな? ついでに言われちゃったけど……あの人は普通に悪い人ではないからね。特に探偵を頼ってるボクみたいな人を毛嫌いしているだけで……」


 彼の顔が青ざめた。口から「とほほ」なんて声が聞こえてくるから察するに以前、散々言われたらしい。


「まぁまぁ……でも、大事ですね。刑事の方から探ってみるのも……」

「内側から自分も探ってみるよ。今回の事件で色々助けられたからね。とにかく、君はいろんな警察関係者に会ってみるのもいいかもな。探偵として今後やっていくためにも一人の刑事ばかりに集中しているのはつまらないところもあるからね……。あの男もきっと……ボクのようなとんでもない奴と一緒に組んでなかったら、そこまで天狗にはなってなかったかもしれない……」

「ネガティブになるのはやめましょう。影山刑事のせいなんかじゃないと思いますよ。影山刑事は悪いことは悪いと言える人じゃないですか……あの男とは全く違うんですから……」


 彼は一回こくりと頷く。そして別れの合図とでも言うように「じゃあ、また。今度はまた事件じゃない時にゆっくり回転寿司でも食べに……いや、そっちは懲り懲りだな……ええと、何にしようか」と考えながら消えていく。

 最後は最後で、しまらなかった影山刑事。後でメールでツッコミでも入れてやるかと思うものの、そんな時間はない。

 僕は僕で「ユートピア探偵団」のことを調べなければならない。

 日常の空いた穴を使って、調べ上げていく。SNSも欠かさず、確認しているのだ。結果としては残念ながら彼等を称える声が大きすぎる。

 誹謗中傷をする輩もいたようだけれども。探偵の正義を冠する力が大きすぎていた。新聞に載る程の裁判沙汰になって、反乱分子の言葉が何もかもが消えている。その影響もあって誹謗中傷どころか批判すら見られない。きっと訴えられることが分かっているから、手が出せないのだろう。


「くっ……」


 あまりにも大きすぎる敵を相手にしているのだ。それに対し、今は何もできない自分がいることに腹が立った。

 今はただ怒りを耐えて、動いていかねばならない。そうでなければ、アズマのような人間がまた生まれてしまう気がする。ユートピア探偵団の何かを知っている訳ではない。まだ情報すらないはず。

 なのに、だ。

 ちなみにその疑問に関しては探偵団の一員である彼女はどうなのか。


「宮和探偵……貴方はユートピア探偵団をどう思ってますか?」


 場面は移り変わり、学校の教室の中。僕は昼休みの中で宮和探偵の席近くに座り、問い掛けていた。

 彼女は弁当を食べる手を止める。可愛らしいたこさんウィンナーがウサギカットの林檎の上に落ちていった。僕が「あっ」とそのことに反応している間に彼女は返答を始めてくれていた。


「そうだね……。って言っても、あたしは下っ端の下っ端の方だってことは言っといた方がいいかな。見習いっちゃあ、見習いなんだよね。だからまぁ、上の人の話は知ってるには知ってるけど……その君の調査に役立てるかは分からないよ」

「……それでも何か、今までも少しの疑問に助けられてきたんだ……今回も何か手掛かりになるものがあるかもしれないから……」

「そっか……じゃあ、まず大切なことを言わないと、ね」

「大切なこと……?」


 何か。とんでもない告白があるのか。

 ドギマギ。それも心臓が壊れそうな位の感覚で待っていた。


「それはね……実はあたしって探偵って言っても推理力が高いってタイプの探偵じゃないの。まぁ、サポート型の探偵っていうのかな。だから、あたしは他のプロの探偵と組むことで実力が発揮できる探偵ってことなんだよね。いきなりの衝撃的発言、ごめんね」

「……あっ、うん」

「何? その素っ気ない反応!?」


 いや。もうとっくに知ってたことだから。

 なんて反応すれば良いか。分からなくて。

 

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