Epilogue.8 真相開示の緊急手配(オペレーター)
Ep.1 探偵と通夜
「影山刑事……調子はどうですか?」
「いや、どうもこうも問題ないって……単に腕を怪我しただけだから……ちょっとまぁ、まだ痛みは残るが普通に回せるし、な」
少しずつ緑が増える、都会の中に潜むコンクリート上の公園で僕は影山刑事と話していた。
彼は包帯も取った落ち着いた状態で話している。あの時はヒヤヒヤしたものの、だいぶ調子を取り戻したみたいだ。
先輩を失った悲しみも、だ。彼は自分から葬式について語り始めてきた。
「ふぅ、やっと葬式に行ってきたところ……君も鳥山さんの通夜には行ったんだろ?」
「あっ、はい……家族に会わせる顔はもうほとんどなかった状態でしたけれども……」
本当に気まずかった。幾ら犯人を捕まえたとは言え、守ってやれなかったことに対して。もしかしたら僕だったら何とかできたのではないか。
咲穂さんは両親が亡くなっているため、遠い親戚の人達が手配していたもので、あまりこちらを気にしてはいなかったが。
鳥山さんは父親も母親も健在でこちらをずっと見てきていた。
家族の人もきっと思っていたのかもしれない。それだけ事件を経験しているのであれば、もっと探偵がうまく行動していればうちの子は死ななかったのかも、と。
そこは未だ苦しいままだ。
あの時、咲穂さんのところで僕は「もう誰も死なせない」との趣旨の発言もした。もしも発言を鳥山さんの両親が聞いていたら、悔しいどころの話ではないはずだ。
彼は黙って話を聞いて、そして共感をする意思を見せるためか、頷いた。
「……たまにあるさ。家族から、どうして守れなかったんですか……って……どうしてあの子を守れなかったんですかって……連続殺人だけじゃなく、誘拐の殺人とかでもあって……家族が涙ながらに我々に訴えるんだ……当然だ……本当に辛くてたまらないのだろう……でも、それは探偵の仕事じゃない。刑事である、こちらの仕事のはずなんだ……警察の仕事のはずなんだ……責めるのはこちらだよ」
影山刑事も散々言われただろう。殺人事件が起きて、狙われた人間が予想できたはずなのにも関わらず、みすみす殺されてしまった。
僕達は同じ思いを抱えて、生きなければならないのだ。
「……分かりました……ありがとうございます。少しだけ気が楽になったので……」
「特に何もしてやれなくて、すまんな……」
「仕方ないんですよ」
重い空気が流れる中、ただただ二人ベンチで並ぶだけ。彼が買ってくれた缶コーヒーを飲もうとしたが、あまりの冷たさと苦さに悶絶しそうになった。それでもぐいっと飲み干してみせる。
これ位の苦さで心の闇を洗い流されるのであれば。
「……いい飲みっぷりだね。将来が楽しみだよ」
「酒ねぇ……」
正直、トラブルが起こる予感しかしない。あまり飲みたくない。しかし、酒を飲めば感覚はおかしくなる。つまりは探偵としての行動も求められない。いいことがあるのでは、と思ったが。
その域に達する前にアルコール中毒で死にそうだからやめておく。
それよりも、だ。
彼に言わねばならないことがある。
「あの、影山刑事……?」
「何だい?」
「影山刑事って『アイリス』って名乗ってるって、本当ですか?」
彼がコーヒーを噴き出した。それからすぐに怪我した方の腕で口を拭っていたがっていた。
「ちょっと、いきなり何を……」
「映夢探偵から『アイリス』……アズマ探偵に詳しい人の話を聞いていたんですよ……僕の幼馴染を攫ったであろう……アズマのことを……」
「何で僕を『アイリス』だと思ったんだい……?」
「それは正体を隠そうとするところ……ですね」
「えっ?」
アイリスは映夢探偵に正体を隠すよう、伝えていた。つまるところ、探偵とバレたら困ることがあるからだろうかと考えていた。
しかし、違う。怪しかった宮和探偵も目立ちたいとの気持ちはある。それなのに、わざわざ映夢探偵の口を塞ぐ訳が分からない。
何故か。
簡単だ。
「警察官は公務員で副業ができない……動画撮影や探偵活動、そういったものには報酬がかさむことがある……もしくはそれで一回以上、金銭を受け取ったことがある……影山刑事はそれがバレると困ると感じ、名前を偽ることにしたってところじゃないですか?」
「……それだけ……かい?」
「他にも『アイリス』ってのは華の名前ではなく、カメラ用語で光の量を調節すること、つまり影を増やしたり、減らしたりってことってなるんです……撮影用語ですね。影が名前に入っているからピッタリだと思ったんじゃないですか?」
映夢探偵がアイリスを紹介する時に言っていたこともある。「アイリス」のことに関して知影探偵が話をした時だ。「知影探偵のことではないぞ」と。
つまり、それは一つ。知影探偵の名前に影が入っているから、だ。映夢探偵は影のことを連想していたから、そう告げた。知影探偵は華のアイリスを想像していたから否定されて、むきーっと怒っていたようではあるが。
「……なるほど……!」
そんな様子に僕は少しだけ違和感も覚えていた。
「でも、今の推理でも疑問はありますね。映夢探偵は貴方を厳格な人でもあり、すぐ機嫌を損ねてしまって行方不明になるとも言っていた」
彼はその疑問に笑って答えた。
「そういうことか……!」
「ん?」
「あっ、いやね。最初に会った時は彼に何を流されるか分からないってことで連絡先も何も渡してなかったんだ……そしてたぶん、彼がちょっと失礼な言動をした時、ボク、仕事に呼ばれちゃってね……そういうのも多かったから、たぶん、それを勘違いされたらしい……すぐ機嫌を損ねて行方不明になる、みたいな」
「なっ……そんな……」
「凄い勘違いってあるんだなぁ」
できれば、こういった勘違いはしないでほしかった。
少しでも早くアズマの尻尾を掴みたいのだから。すぐ残念との思考をやめて、彼に疑問をぶつけていく。
「アズマの行方を知っているんですか!?」
「って言っても、今は彼は指名手配されてるんだ……分かったら、とっくに警察に行ってるよ……」
その言葉でふと我に返ることとなる。言う通りだ。そしてもし知っていたと仮定しよう。つまるところ、犯罪を庇っている共犯者になる。
僕を襲うこと間違いなし。
「……ヤバかったのか……」
「うん……まぁ、もしボクが敵だとしたら凄い危険なことをしてたと思うよ」
人がいたとしても何もしない可能性はない。人を振り切って逃げる犯人もいるのだし。
しかし、彼が何かするとも思えなかったのだ。今回の事件で、特に。彼が身を挺して犯人の命を守ったのだから。
「ま、まぁ、ともかく……アズマについて何か知ってることって……」
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