Ep.43 推理できっちり追い詰めて

 何から何まで否定する。そうしなければ、自身の全てが終わるから当たり前なのだが。

 責任は持ってもらいたい。何せ、三人の人間の全てを終わらせたのだから。

 感情が混ざりきった僕の声が辺りに響き渡る。


「いーや、それを使ってアンタはこの殺人を犯したんだ! アンタがいつまで経っても否定すると言うなら、それを全部明かしてやるよ!」


 ここで犯人が何をしたのか、全てを説明することにした。


「まず、最初にトリックの準備だ。この回転寿司館に魚の色と形をさせた氷を事前に用意し、冷凍庫に入れておいた。その後、六号室の窓を破壊。他に金槌を持ってくるよう浅場さんから安倉さんに伝える。後は近くのため池に魚を放流。普通の人は犯人がそんな下ごしらえをしているとは思わないから、騙せると思ったんだろうな」


 そこにもう誰の反論もなかった。

 だから続けて、事件のシナリオを語らせてもらう。


「そして昨日。いつも通り、五号室を望むであろう咲穂さん。まぁ、殺害するターゲットのどちらかが六号室の隣である五号室に入ってくれれば良かったんだ。五号室だけがオートロックが壊れているから、安倉さんが疑われるような密室の状況を作れたんだから、ね」


 それから、だ。

 話は殺害シーンへと移っていく。


「で、犯人は皆が寝静まった夜中、早速密室の仕掛けを持って咲穂さんのいる五号室へと潜入。袋か何かで返り血の対策をしつつ、包丁で咲穂さんを殺害。ベッドの上に寝かせた後でさっき説明した密室トリックを使ったんだ。二人目の安倉信さんもその後、停電で皆がバラバラになる機会を狙って、殺害した。それから最後のターゲットである鳥山さんを操ったんだ」


 浅場さんがポツリと復唱する。


「操った……?」

「正確に言えば、脅して言う通りにさせたの方かな。簡単だ。咲穂さん達は僕や宮和探偵を陥れるために社長に対し、脅迫状を出してたんです。その目的は僕達に過去を探られないため、だと考えてます。竿本はその過去について、脅し、言う通りにさせたんだ!」


 その言葉に奴は酷く狼狽しつつ、近くにあったテーブルに拳を埋めていた。


「ふ、ふざけるな! 人を操るだの! 人をコケにするのもたいがいにしろ!」

「でも実際やったはずだ。過去を出し、そして自身がターゲットであると何等かの方法で実感させたんだ。だから、彼女はわざわざ停電の中、円形の廊下を走ってたんだよ」

「何のために!?」

「とぼけるなよ。そうすれば、安倉信さんの部屋の近くをうろついていたってことになる。そこから考えるだろ……ああ、この事件、もしかして鳥山さんが犯人ではないのか、と!」

「実際そうだったんだろ! 犯人じゃないから、知らないがな!」


 人を殺すだけでは飽き足らず、亡くなった人に罪まで擦り付ける始末。僕の中で更なる嫌悪感が高まっていた。僕が探偵になろうとどうなろうと構わない。

 絶対にこの男を捕まえなくては、と燃える。

 それは宮和探偵も同じだった。クラスメイトを。友人になろうとしていた少女を殺された彼女は声を上げる。


「あの怯えようはどう考えても、誰かに脅されてたって感じよ。そんなんじゃない。あれは人を殺してきた人の感情じゃないってことはあたしにだって分かるんだよ! それで、あの部屋まで追い詰めたんでしょ!」

「追い詰めたって……自殺するために最適の部屋だったってだけだろう?」

「違うわね。きっとあの部屋に籠って、ヘッドフォンでもするように指示を出していたんでしょ。そうすれば、この情報を外に流さないか、または……殺さないでやるとか言って……彼女はそれを信じたんだよ……。そうしている間に魚が開けた密室を……その時間を見計らって、開けたんだ……開けて彼女に毒を飲ませ、遺書を偽造したんでしょ?」

「はぁあああ……勝手なことばかり言って……本当に不愉快、極まりない……それを俺がやったって証拠は何処にもないだろう?」


 僕が静かに問い質す。


「証拠が欲しいか」

「そうだ。証拠をくれ! 証拠を! 何を言うにもそれが大事だろう? それにちゃんとした証拠だ……この探偵が勝手に密造していないと言えるしっかりとした証拠が必要だ! それがなきゃ、犯人呼ばわりなんて許されない! 到底、許されることじゃない!」

「……じゃあ、一つ教えてやるよ」


 僕の目があまりにも冷たかったからか。奴は全身の毛を逆立て、「な、なんだ」と聞いてくる。

 聞きたいから教えてやるというのに。随分恐ろしそうな表情だ。


「さっき、僕は大事なことを説明していなかった……そう。第一の密室の彼女の助けて、のメッセージだ……海老沼さんの疑問もきっとそうでしょう? もう彼女は死んでたはず……じゃあ、誰があのメールを打ったんだってことになる……!」


 海老沼さんがハッとしてから、こちらに質問をしてきた。


「そ、そうだよ……密室の謎は分かったけど……そっちは……」


 僕は首を横に振る。


「そっちは簡単だ。あのメッセージは早く遺体を発見してもらうためだろう。だって、停電が起こってしまえば、誰でも入れる状態になってしまう……密室トリックにならなくなって安倉信さんに疑いを向けられなくなる。だから、そのメッセージを送ったんだろう……犯人がね」

「となると、あれ犯人がスマートフォンを持ち帰ったってことになるのよね……?」

「でもスマートフォンはあった。ってことは取り換えたってことになるんだ……! あの落ちてたものが……竿本になるってことなんだ……!」


 その告発に対し、余裕で笑う彼がいた。


「それが証拠か……?」

「ああ……その証拠、見せてみろ!」

「じゃあ、見てみるかい……?」


 突如、落ち着いたものが嫌に気になった。もう諦めたとでも言うのか。

 一旦、落ち着いてみるもアルバムの画像に全員が息を飲んだ。根津さんがポツリ。


「あら……やはり、社長の写真だけ……? 前にその写真を撮ったと自慢されてましたよね……?」


 そんな、だ。目の前の状況が信じられなかった。


「ちょっと待て。電話番号は!」


 発言の要求が更なる衝撃を与えてきた。


「電話番号も悪いが、同じなんだ……アルバムだけ画像を移し替えたとかではないんだ……だから、な。君の言う、スマートフォンを取り換えたっていう推理は成立しなくなるな……残念ながら、君が思い描いた証拠が示したのは俺ではなかったということなんだよ! 分かったか!」

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