Ep.42 氷の如く
「はぁああああああああああああああああああああああああ!? はぁああああああああああああああ!? はぁああああああああああ!? 何を言いだすかと思えば、君ね……君ねぇ……悪い冗談はよしたまえ! 俺が犯人だなんて……あり得る訳がないだろ!?」
周りも騒めき、深瀬さんなんかは「マジかよ」と。何だか唇を歪めて喜んでいるような気もするが。それはさておいて。
かなり焦っているのが、当たりの証拠。だと思いたい。
ただ、このダイイングメッセージで間違っていることはないだろう。なんたって、彼以外に出世魚やしらす、イワシに関してメッセージが当てはまる人間がいない。
竿本は当然、反駁する。探偵としての僕を相手に噛みついた。
「あのなぁ……そのダイイングメッセージに関しても、犯人が自分をハメようとしたっていう可能性があるんじゃないか? こっちとしては恨まれやすい立場だからね……こちらを罠にハメようとする姿がありありと想像できるよ……」
一度は余裕がある人物を振る舞い始めた竿本。手を横に向けて、小刻みに振っている。
「犯人がわざわざ軍艦だけを飲み込ませるか? 運よくしらすってことが分かったから良かったものの……犯人だったら、せめてしらすを口に入れるとかではなく、そのまま近くのそうだな……カウンターに置いとくんじゃないか? それにこんなメッセージをわざわざ被害者が犯人に気付かれないように……以外で作る理由が分からないんだが」
抗議に対して攻めてみるもまだ「やれやれ」というような話し方をする。
「それはまだ君が浅知恵だからだろう……とにかく、その推理は破綻している! 俺が犯人だったとしても、じゃなかったとしても言わせてもらうよ。全て間違ってるよ。うん、この推理は根本的から間違っているんだ」
犯人お得意の頭ごなしの否定がやってきた。当たっていたとしても、「すべて違う」と言い張る。典型的な精神攻撃だ。
それで探偵が推理をやめてしまえば、自分は助かるのだと思っているのだろう。
僕の方こそ食らい付いてやる。犯人の喉笛を僕の推理で食いちぎってやる。
「間違っているのなら聞かせてもらおうか。何が謎なんだが!」
「だいたい、氷なんて何処にあるんだ! トリックに使った氷なんだから、それなりに大きい氷が必要になってくるだろう? そんな大きな氷がそれひょいひょいと作ることはできないし! 瞬時に作れる程、極寒な冷凍庫なんてうちにはない!」
「氷ね……」
僕が復唱している合間に蟹江さんが反応する。
「確かに結構氷が必要そうなトリックだけど……最初っからそんなおかしな形の氷が保存されていたとしたら、気付くわよね……削るとしても社長さんが言ってた通り、大きい氷が必要じゃないかしら……まさか社長さんがそんなこと、するはずないわよね……」
僕が首を横に振る。
「ちゃんと、ありましたよね。海老沼さん」
いきなりの「氷はあった」発言に関して、天井を見ながらあわあわしている。
「えっ、わたし!? えっ? あったって……?」
「大きなマグロ、ありましたよね? あれが消えたの覚えてます?」
マグロの消失。何処に消えたのかの謎。それが事件を解く意味だったとは。今の僕でも実は驚いたままだ。
海老沼さんはその事件について、微量だが覚えていてくれた。
「う、うん……マグロ……ね。覚えてるよ。あれ、どうやって消えたのか、分かったの!?」
「ええ。簡単です。あんな大きなものを運んだとしたら、絶対に誰かに見られてしまいます……。背負っていたりしたら、絶対に隠すことなんてできませんし。そもそもとんでもなく重いですから……運ぶのにも色々準備が必要でしょう……でも、ここにはそんな台車なんて何処にもない……」
その推理を邪魔するかのように竿本が言い放つ。
「そんなことどうでもいいじゃないか!? 消えたマグロなんてこの事件に関係ない! 氷のありかを聞いてるんだろう!?」
「あるんだよ! 黙って聞いていろっ!」
「ああんっ!?」
威圧し、されてから僕は海老沼さんに問い掛ける。
「あれがマグロだと思っていたから、僕達は運べないと思ったんですよ。大きさに囚われていたってところだったかな……」
「運べない……あれが別の物体……ん? 話の流れからして、もしかしてマグロは氷だったってこと!? マグロの形をした氷!?」
僕は真相に気付けた海老沼さんに対し、首を縦に振る。
皆に回転寿司館に用意されていた氷に驚きを感じ、蟹江さんなんてひっくり返りかけていた。
「ええ。その通り。それが着色された氷だったんだ! 氷のペイントがされたマグロであれば! どうにだってなる。必要な氷だけ金槌で取って、要らない氷をバラバラに砕いてからお湯で溶かしたり、窓から捨てたりすれば……簡単に消すことができるんだ!」
「そ、そんな大がかりなものが……あっただなんて」
「普通よりも強い生臭さもそのための演出だったんだ……奥にあるものがマグロだと思われるように……。わざわざ手の届かないところに置かれたマグロを持ち出そうとする人もいないし……マグロが氷漬けにされているという形なら表面を触っただけでは、本物かどうかなんて分からないからな。後、その生臭さが氷についていたとしても、ここは回転寿司館。多少の生臭さは回る寿司に誤魔化されるんだ……第一の部屋に関しては時間の経った寿司がバラまかれていたし……! 第三の殺人の際はもうみんな鼻が慣れていたはず……だしな」
「す、すごい……ってことは、もしかしてさ、その芸術の依頼者に聞けば、社長が頼んだって分かるんじゃない!?」
捕まえることができるのでは、と反応する海老沼さんに竿本は余裕ぶって笑う。
「いやいや、あれはイベントの一巻だよ。最初に言わなかったか? ここは回転寿司のいろんなイベントを用意しているってね……マグロの一本釣りと」
僕は口答えをした。
「見つかったら、そうやって誤魔化すつもりだったのか」
竿本がこう返してくることもだいたい予想はついていた。元からイベントを考案することは得意だろう。
回転寿司館のイベントも殺人というとんでもない事件もその頭で考え付いてきたのだから。
「いやいや、まぁ、今回は頼んだものが途中で気に入らなかったから、捨てただけだ! この事件とは何の関係もない!」
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