Ep.25 探偵同士で推理して

 四号室を確認した結果、彼女の姿は見えなかった。どうやらまだパニックになっているらしい。

 早く見つけなければ。

 森の中に逃げてしまったとなると、色々な危険が付きまとう。ある意味、ここに留まるより危ないのかもしれない。

 僕と宮和探偵は二階から外へ出る。そこには傘やカッパなどがなかった。


「あれ、昼間はたくさんあったのに……」


 雨具が全くないことに違和感を覚える宮和探偵。雨具を取りに戻る時間もないと判断したのか、彼女は外に出ていた。

 覚悟をしたものの、雨はそこまで降っていない。

 小雨よりも弱い雫に打たれた彼女は可能性を語り出す。


「もしかして雨具が返り血対策に使われたのかな? 今はそこまで雨が降ってないし……」


 彼女の可能性は当たっていた。外に血塗れになったかっぱが飛んでいた。


「そうだな。返り血が犯人を教えてくれたらよかったんだけどな……」


 血に関しては証拠にもなる。しかし、今回はあまり活用できないと半分諦めてもいる。

 最初の現場で彼女を発見するまでの時間が長すぎた。

 たぶん犯人は咲穂さんを殺害した後、その部屋のバスルームで血を洗い流したはずだ。


「犯人が血塗れのカッパを第一の事件で持ち帰った可能性はないかな……?」

「たぶんないよ。だって、自分達が事件に気付いたのは血の痕とかじゃないから……。第二の事件で血塗れになったレーンはともかく、第一では別に外に落ちてなかった。つまり、それって被害者が第一の事件の部屋の中で血の処理を完結したってことじゃないかな。大出血を何とかできるカッパのようなものはポケットの中には入らないし……一応、本当に犯人がおっちょこちょいで血塗れのカッパを部屋に着て帰った可能性も考えて、部屋のゴミ箱を見てるけど今のところは見つからないな」

「……ほぉ……氷河くん、そこまでもうやってたんだ」

「って言っても、結局見つかってないからさ」


 話しながら歩いたせいか、またもや僕は転びそうになった。ただ素直に転びそうになったことを見せるのは少々恥ずかしい。きりっと背筋を伸ばし、何事もなかったようにふるまう。


「あっ」


 何かに気付いたか。何も気付かなかったことにしてほしかったのだが。


「な、何?」

「いや、傘……こんなところに捨てられてたんだって……」


 見てみると、確かに雨具が全部自分の足元に捨てられていた。ここから回転寿司館の二階入口が見える。誰かが上から投げ捨てたのだ。


「……もしかして鳥山さんが?」


 宮和探偵はポツリ推論を口にした。彼女が冴えているような気もして、失礼ながらも少々驚かせてもらう。


「鳥山さんがどうして?」

「皆を外に出さないようにするため……かな? 時間稼ぎかな。そのためにカッパや傘を放り投げて使えなくして……そうすればみんな雨具を取りに戻るから……」

「じゃあ、それで逃げようとしてるの?」

「違うかも、だけど……でも」


 何だか深刻な顔になる彼女。暗い雰囲気になっている状態でも僕は彼女から考えを引き出していた。


「でも?」

「逃げる理由があるんじゃないかなって思うの。今の事件の状態ってみんなどう考えてると思う? 氷河くんは違和感とか色々あるけどさ……それ抜きにして。客観的な感じで」


 宮和探偵は一旦探偵とは違う目線で事件を見ろと言っていた。それを頭の中で実行してみたら、分かってきた。


「……最初の事件は密室で信さんしか犯行が不可能だった。誰が見ても、咲穂さんを殺害したのは信さんでしかあり得ない」

「そう! それで次の事件は……?」

「信さんを亡くなった後、慌てた様子で逃げた人がいる。それすなわち、犯人に違いない。友人の復讐のため親を殺害してから傘やカッパを壊したりして妨害して、山のふもとまで逃げようとしている」

「あたしもそう思ったんだ」

「鳥山さんが犯人かぁ……」

「あっ、でもやっぱ違和感はあるんだ」


 どうやら彼女も今の仮説がおかしいことは理解できていたようだ。

 同時に話すことを意図はしていなかったのだが。


「金槌」

「凶器」


 ほぼ同じことを口にした。僕は取り敢えず、頭の整理も兼ねてそのまま喋らせてもらうことにする。


「金槌で殴ったとして。女子高生の非力な力だと一発二発で殺せるだろうかっていうのはある……。打ちどころが悪くないと何発も当てないといけないし……実際、ダイイングメッセージも残されている……」

「それっておかしいよね。ダイイングメッセージを残す前に犯人に対抗することができた。体当たりでもすれば鳥山さんの手から金槌を取り上げることはできたはず……」

「いくら混乱していたからって、助けを呼びに行かなかった理由が分からないな……逆にあんな変なダイイングメッセージを残す意味も分からない……」


 今、話している点が不思議でしかない。

 犯人はもっと強固な人物でないか、と思われる。蟹江さんや海老沼さん、根津さんのような人物が副社長に勝てるとは思えない。

 となると、犯人は社長か深瀬さんになる訳だけれども。

 そうなると、一つのダイイングメッセージが頭の中に刺さり出す。


「氷河くん……そうなると、あのダイイングメッセージがって訳ね」

「結構、推理が進んでるんだ……」

「そりゃ当然! 今回は調査時間も結構長いし」

「じゃあ『弱い』って何なんだ……」


 彼女もそこまでは見抜けていないようで。


「全く分からないわね……でもあっ、そういえば、あったじゃない! ネットとかで!」

「ネットとかで?」

「ほら、アニメの小さな女の子が『ざーこ、ざーこ』とか言ってるの!」


 聞いたことがある。幼馴染の格好をしたVtuberが視聴者サービスなのか「そ、そんなこと言ってほしいの!? 分かったよ……お兄ちゃんのざぁこ、ざぁこ、滅茶苦茶よわ……こんな女の子に負けちゃって恥ずかしくないの? って言ってる自分も凄い恥ずかしいよ……メスガキってある意味色々凄いかも」なんて言ってた気がする。

 思い出していると、彼女が突然大声を上げた。


「えっ!? ってことはつまるところ、犯人はメスガキ……あれ、そうなると犯人、あたしか鳥山さんか、まぁ……年齢的にはよくて海老沼さんになるってこと!?」


 こちらも興奮する彼女に驚き、思わず身を引いてしまった。


「まだ被害者がその意味で伝えたかったって決まった訳じゃないからな……」

「そ、そだね……ダイイングメッセージ、他に手掛かりとかないのかな?」

「他の手掛かりか……」


 分からないけれども。あの部屋で被害者がしていただろうことをまとめてみることにした。


 


 

 

 

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