Ep.14 怪しすぎる人々と
話は一旦僕の部屋に集まってすることとなる。宮和探偵は既に流れ始めていた寿司のネギトロを何個も何個も頬張っていた。たまにお茶を啜る音が聞こえてくる。
宮和探偵が何のためにこの部屋にいるのか、疑問になってきた。
「宮和探偵……? 怖がっている割にはめっちゃ食べますね」
「食べなきゃやってられないって感じ……! 別に怖くないとかそういうことじゃないんだよ」
「な、なるほど……」
僕は恐ろしい雰囲気に食欲を失くしてしまっているからか。だから正反対に暴飲暴食をしたくなる彼女の気持ちが分からないのだろう。
ベッドで横になっている僕に対し、回転寿司のレーンの真ん前にいた彼女。ネギトロを食べて満足し終えたのか、こちらを気遣い始めていた。タブレットを持って、いつでも注文ができる状態だ。
「氷河くん、何か食べる?」
「今は何も食べる気にはならないんだよね……」
「ふぅん……折角なのにもったいないな。マグロとか海老とか、穴子とか、玉子とか、色々あるよー」
どうしても勧めてくるものだから、騒がしい。だからか自分は滅茶苦茶なことを言っていた。
「テンプラ握りとか、ハンバーグとかお肉とかある?」
「揚げる場所がないのかなぁ……ないなぁ。お肉系もないね……」
「じゃあ、メロンで」
「デザートもないんだよね……あくまで今日流れているのは本格的な寿司だけなんだよね……いくらもないけど……」
何なら用意されているのか。僕もタブレットを見せてもらい、確かめる。
マグロやぶり、たいやアジ、はまちなどの主流の寿司に関しては注文できるようである。後は鉄火巻き、かんぴょう巻き、河童巻きはある。後は同じ巻物でたくあん巻きや納豆巻きはあった。
ただ軍艦巻きは違った。
先程、宮和探偵が食べていたネギトロを含み、いくら、しらすしかない。しかも、そのいくらは売り切れとなっている状況だ。
「選べるものが意外と少ないな……」
そうボヤく僕に少しだけ前向きな宮和探偵がポツリ。
「仕方ないよ。こういう閉鎖空間だからさ、下手にたくさん仕入れちゃうと無駄が出ちゃうでしょうし……そのバランスでこうなっちゃってるのかも。それに回転寿司は種類だけが楽しいものじゃないし……ほら!」
彼女はネギトロを五皿も平らげたようで。手元にある皿の投入口に五枚一気に入れていく。坂道になっている場所を皿が進み、真上にあったガチャポンの機械が動き始めていく。
中からカプセルがコロコロ転がり出てきて、それを宮和探偵が取っていく。中身を空けて手渡してくれた。
「ほら、お寿司型のミニカーだって!」
海老のお寿司にタイヤがついたおもちゃだった。そんなもので心が動かされるわけがない。そう思いつつも、気付けば僕はミニカーを手に取って、動かしていた。ばねか何かが中に入っているらしく、後ろに向かって走らせると反動で前に進む形のものだった。
何度か引っ張って、床に走らせてみせる。
そんな中、やっと先程の質問がやってきた。
「そうだ! 氷河くん……! さっき言ってた、共犯者って誰? 誰があの子達に協力してるの?」
共犯者の話を僕はしていたのだ。
僕は静かにその人物の話をした。
「たぶん、安倉咲穂さんのお父さん、信さんだよ。安倉信、彼が共犯者だと思う……何のために協力してるのかは分かんないけど……」
まさか副社長である父親が共犯者だとは予想外のようで。
「えっ? 何で!? 何で副社長が……社長の脅迫をしてるの!? というか、どうしてそういう結果に至ったの?」
僕が気付いた理由は一つ。副社長のおかしな行動だ。
「副社長は社長が何をされるか分からないから、用心してるんでもあるんだよね……そのために色々策を練っているみたいだったし」
「う、うん……だったら、やっぱ変じゃん。ちゃんとあんなに用心してたのに……犯人だったなんて……」
「ああ……でも、その用心に穴があったんだよ」
「穴!?」
「覚えてる? 信さんが自分から、浅場さんは怪しいって言ってたこと?」
彼女は少し記憶の整理をしているのか。時間が空いてから、答えがやってきた。
「そうだそうだ……スパイ容疑で色々もめたことがあるから、もしかしたらその報復として浅場さんが動くかもしれないとは言ってたよね……! その彼女がどうしたの?」
「手巻き寿司をやった時、浅場さんが毒を入れるかもしれないものをそのまま信さんは社長に渡してたんだよ……警戒もなく、本当に流すように、ね」
「……あれだけ用心してたのに……そこだけ?」
「僕が考えるにその不自然は……本当は社長が殺されるとは思っていないから……脅迫状を出したのは自分達だったから……じゃないか?」
「……そういうこと!?」
自身で推理したものは良いものの、これからどうしようなんて疑問が頭の中で渦巻いていく。
果たして副社長は何処まで娘の計画を知っているものか。僕達を殺すことまで頭の中に入っているのか。それとも娘の冗談として受け取っているだけなのか。
宮和探偵はまたもネギトロを口にして考えていた。
「確か、お母さんが亡くなって咲穂ちゃんは寂しい思いをしてたとか? そういうのがあって、もしかしたら色々お父さんとしても負い目があったのかも……一見厳しそうな父親には見えるけど、本当は娘のワガママを拒否できない父親なのかも……ね」
「なるほど……娘に逆らえない父親、か」
ふとした光景が頭の中で流れていた。
かなり昔の話。僕の姉が父親に対し、怒りまくっていた。父親は「まぁ、悪かった悪かった」と何度も頭をへこへこして下げていた気がする。
あのトラブルの理由はたぶんプリンを食べてしまったか、何かだったはず。
何処の家庭でも似たような記憶は起こるのかと。今はいない父親や引き籠りになってほぼ廃人と化してしまった姉のことを思い返していた。しかし、すぐに気を取り直す。過去のことばかり考えても何の意味もない、と。
脅迫状についてもう少し探ってみるべきか。
一旦僕は部屋の外に出て、咲穂さん達の部屋を目指す。ここは一度、本当に話を聞いてみるべきか、と。
その中、何やらとても騒がしい声が聞こえてくる。
「お前は誰なんだ……!?」
二階から。この少し高い男の声は確か、深瀬さんか。
もう一人、この館では聞き覚えのない男の声が反響する。
「いやぁ、すみませんね。こんな雨の中、森の中で迷ってしまって……」
「何故こんなところで迷う必要がある!? まさか、強盗か」
「ちょっとちょっと! そんな訳ないでしょう! ボクはけ……あっ、いや、たまたま本当に迷ったただの登山愛好家なんですよ……!」
「そんな軽い格好の登山家がいるものか……!」
「ええと、どうしよう?」
どんなトラブルが起きているのか。本当に怪しい人物がこの館に入ろうとしているのか。気になって僕は二階の玄関に向かって走っていた。
宮和探偵も後ろから来ているのだが、首を横に傾げている。
「この声……どっかで……?」
「えっ、聞き覚えが……あれ?」
言われてみれば、だ。パッとは出てこないものの、記憶の奥底では「知っている」ようで。
誰かと思い、玄関の向こうにいるびしょ濡れの男の顔をしかと見た。
僕の頭にパッとその名前が現れる。
「えっ!? 影山刑事……! 何でこんなところに!?」
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