Ep.13 少しずつ見えている

 海の荒波具合を見たら、もう森を歩く意味も残っていない。そもそもマイナスイオンを楽しめる状況でもない。

 一般の人ならば、家の中に引き籠って時間が経つことだけを待つ位だ。

 何故なら彼女達が殺意を持っているから、だ。しかもどうしても事故に見せかけたいらしい。

 信じたくはないが、今の彼女達の態度を見る限りはそうにしか見えなかった。宮和探偵を引っ張って、海に落とそうとしていた。ただ海に落ちるだけなら生きてそうなイメージはあるが、この辺りの波打ち際には岩も散見されている。あの場所から落ちたら、間違いなく岩に体を打ち付けて全身滅茶苦茶だ。

 僕をただドッキリで驚かせて、恥を掻かせようと思っている訳ではないだけだ。

 この考えに似たようなものを宮和探偵も持ち始めているようで。辺りを異常な程までに見回しつつ、僕の後ろを歩いていた。何処から襲撃がないかも確認していると思われる。


「あれって……普通のやり方じゃないよね……何か、あたし悪いことしちゃったかな? 目立ちすぎだけじゃ、あんなにはならないわよね……」


 ただ悪目立ちしたから、であれば猶更恥を掻かせるだけの方が普通だ。恥などはこちらが生きてなければ、感じることができない。死んでしまったら、「ざまぁみろ」なんて思えない。

 ならば、本気で僕達の命を奪いたい理由があるのだ。

 僕に関しては思い当たりがない。彼女達とそこまで話をした記憶もない。今回のことで初めて名前を覚えた位だ。


「……宮和探偵、何か狙われるようなことした?」


 僕は彼女に原因があるとしか思えなかった。

 タイミングもそう。宮和探偵が元から彼女達に会っていたなどがあれば、少しは推測できるのだが。


「転校してきたばっかでそんなことしないよ!」

「本当に? 何かの証拠を見つけて脅したりとかは……?」

「しないしない! そんなこと、あたしはしないよ」


 彼女は声の中に力を入れて、強く言い放つ。本当と信じよう。


「一応確認しただけ。気を悪くしたなら、ごめん」

「しょうがないよ……でも、気にしていない間に何かしちゃったかな……? 取り敢えず、関わりとしては鳥山さんに話しかけただけだよ。探偵として色々知っておきたいからさ」


 今まで僕がやらなかった行動だ。学校で事件が起こることなど少したりとも想定したくはない。聞こえてしまうものは仕方がないが、そこまで人の噂にも首を突っ込もうとはしない。

 逆に知ってしまうことで面倒になる話もあるから。

 しかし、だ。宮和探偵は知ろうとしたことで鳥山さん達の不正に気付かれたと勘違いさせたのかも、だ。

 そこを考えると、放課後に回転寿司へ行った時の反応も納得がいく。犯罪系の話をした時、彼女達は二人でトイレに行った。あれは僕達がカマを掛けたと思い込んで、トイレか何処か別の場所で会議をしていたに違いない。

 鳥山さんと咲穂さん。

 二人の殺意。

 あると仮定すると、先程の中で一つだけ不思議なこともあった。


「何で、咲穂さんは助けてくれようとしたんだろ……あれって、仲間割れじゃないか?」

「話し方としては『何のつもり』って間違いなく、そういう意味よね……。何で? 何で?」

「鳥山さんが裏切った理由……」

「あるとしたら……気が変わって……あたしが言ったことかな。罪とかは考えていこうって……罪を犯してもって話! あれに感化されたとしたら」

「なるほど」


 となると、僕達は口封じされそうになったと予測できる訳だ。

 犯罪は食品系統に関することか。バレると捕まるか、将来がお先真っ暗になる話だろう。

 考えていると、宮和探偵はまだ首を回していた。手なんかも震えているように見える。探偵を名乗っているにしては、小心者ではないか。


「宮和探偵、怖いの?」

「あ、あったりまえだよ!? だって命狙われてるんだよ! 怖くないの!?」

「確かに怖いけど、今はこっちも警戒してると思われてるし……そもそも事故だって見せかけたいはずだから。襲撃はしてこないんじゃないかな?」

「そんなこと推理する余裕はないんだよ!」


 そもそも推理できる程に想像のキャパシティがあるものかどうかも怪しいのだが。そこはともかく。

 ただただ嫌なことを考えているだけ滅入るだけだ。彼女の気持ちを安定させるためにも会話を続けていく。少しでも言葉を出せば楽になることも絶対ある。


「命狙われることって探偵ならよくある話でしょ」

「ないよ!? どの世界観の話してるの!?」

「……普通にあると思う……だって真相を話す探偵だよ? 真相、警察にばらしちゃうかもなんだから、普通にヤバいでしょ」


 それで探偵の真似をして、犯人に殺されてきた人も何人も見てきている。それに僕自体も殺されかけたことはある。

 推理を話した後に「アンタさえいなくなれば、真相は闇のまま」と考えて襲われたことは今でもトラウマの中にくっきりと残っている。


「あたしが担当してきた事件の犯人は……そういうの考えてなかったんだなぁ……」


 何も考えていないと思われているだけではなかろうか。推理できていなければ、別に襲って罪を増やす必要はない。

 ただ、今それを伝えれば彼女は怒るかもしれない。面倒な話は災いの元。別の場所で言うつもりだが、こんな雨の中、そして恐怖の真っただ中、災害に災害を上乗せする気分にはなれない。

 彼女が少しでも楽になるよう、脅迫状の話もしていくことに決めた。


「まぁ、犯人が捕まれば大丈夫ってことで……あの二人が脅迫状を出したってことで間違いないと思うけど」

「凪ちゃんに咲穂ちゃんがイタズラで脅迫状を出したってこと……?」

「うん。さっきの鳥山さんの話を聞く限りは特に咲穂さんは社長に脅迫状を出したところで『そんな恨みを向けられるのは当然でしょ』とか考えて絶対罪悪感とかで潰されることはないだろうし……」

「そっか……あの二人が、あたし達を連れてくるために脅迫状を……そうだね。探偵側で情報共有とかしてたらヤバいってことで……あたし達を葬るために……事故と見せかけるにはピッタリのロケーションだし……」

「間違いないと思う……」

「社長じゃなくて、あたし達が狙われているとは……」


 最後に彼女が放った一言で、少しだけ新たな事実にも気付いた。


「そうだ……もう一人、脅迫状に協力してる人がいるね」

「えっ?」


 そこでようやく僕達は建物の前に辿り着いた。ここなら事故偽装はできないと思わしき、館の前に無事帰ってくることができたのだ。

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