Ep.9 回転寿司館の仕組み(1)

 僕が外を見続けていると、社長直々に声を掛けられた。


「残りの人達は仕事やら準備やらで来るのに時間が掛かるみたいでね。まっ、後来る人達に説明する必要はないから……一階の食堂に行こうじゃないか」


 宮和探偵達女子高生組は既に一階へ向けて歩き出している。深瀬さんと浅場さんの凸凹コンビもお互い別の方向を見ながら、たったったっと下へと向かっていた。

 僕も社長の後ろを追うことにした。

 早速降りた場所に大きなテーブルのダイニングがあった。そこに対し、社長がまたも近くの壁に掛かっている番号の書かれたカードキーを指差した。

 一から十まで数字が書かれており、その八を僕に、十を宮和探偵に渡していた。


「荷物が重いだろうから、置いてくるといい」

「じゃあ、咲穂達も……」


 副社長の信さんが四番、五番のカードキーを手に取って、渡していく。

 四番を受け取ったのは鳥山さん、五番は咲穂さん。二人が顔を見合わせ笑い合っているところを見るに隣同士になれたことが嬉しかったといったところか。

 各々がカードキーを取って、確認する。

 一番は副社長の安倉信さん。

 二番は浅場さん。

 三番は社長の竿本さん。

 四番は鳥山さん。

 五番は安倉咲穂さん。

 七番は深瀬さん。

 八番は僕こと虎川氷河。

 十番が宮和探偵だ。

 残されたのが五番と九番だった。しかし、九番に関しては社長が持っていた。


「これこれ、こっちを持ってないと怒られるからな……」


 宮和探偵はその独り言に疑問を入れていた。


「何で、ですか?」

「九番は電波良好でね。仕事が大切な根津くんにとってこの部屋は外せないらしくて」

「ああ……! 先約されている人がいるんですね」


 僕はそんなことで疑問を解決して、スッキリとした顔をする宮和探偵を少し睨んでいく。


「……どうしたの? 氷河……くん?」


 ここで知っておきたい情報があるはずだ。脅迫状を送った可能性がある、深瀬さんと浅場さんには聞こえないよう、彼女の耳元でこそこそと伝えていく。


「部屋割りについても聞いておくべきだと思うんだけど……もし元々決められたものであれば、そこに罠がある可能性もあるし……ったく、何しに来てんの……?」

「ちょっとー。そこまで厳しく言わなくてもいいじゃない。ラリックスラリックスラリっちゃお!」

「ラリっちゃダメだろ? リラックスじゃないの?」

「あっ、そっか!」


 へぼ探偵がやっと部屋割りについて口出しをしていく。

 捜査はコツコツが大事なはずなのである。


「社長さん、社長さん、部屋割りってどうやって決まったんです? 適当ですか?」

「適当ではないなぁ……。さっきも言ったように、根津くんの部屋はネットが強いとか……後は置いてあるものが違うっていうのもあるなぁ……」

「置いてあるものって、何か面白いものでもあるんですか?」

「そうだな。さっき、お二人の女子が喜んでたろ? 四号室にはコスメがあって、五号室には美容雑誌が並べられてるからね」

「なるほど……何か部屋によって置いてあるものが違うんですね」

「ああ……八号室はベッドがちょっと大きめだったりするし……十号室は中にあるバスルームが大きい。そして、お寿司の匂いの入浴剤なんかもあって……」

「凄いっ!」


 他にも聞いていけるところは僕がこそっとスマートフォンにメモをしていく。

 一号室。副社長のいる場所は高級なお茶が置かれていること。

 二号室。浅場さんのいる部屋にはガリなど調味料のバイキングがあること。

 三号室。社長の部屋には釣り堀のゲームがあり、遊べるようになっていること。

 四号室、五号室は女子受けがいい部屋。


「じゃあ、六号室は……」

「クレーンゲームがあるんだけど、今はその部屋は使えないんだ」

「ええ……ゲームがあるのに……!? どうして!?」

「いや、ちょっと部屋が壊れててね。改修のために今は放ってあるんだ……なかなかこの森の奥まで人を来させるのも可哀想でね……」


 またまた社長の優柔不断が発動しているらしい。「そのせいで放っといたままなのよね……あそこ」と浅場さんがヘラヘラ笑いながら口にしていた。

 ついでに七号室はわさびサウナがあるらしい。


「深瀬さん、後で行っていいですか?」

「覚悟があるなら……な。先に潮里……いや、浅場を閉じ込めておきたいんだがな」


 宮和探偵はわさびサウナで何をするつもりなのか。僕をちらっと見ていたが、僕は絶対入りたくない。

 まだ死にたくない。

 というか、そもそも本題から外れている。

 僕はあまり探偵行為をやりたくないのだけれども。何も成果を出さない彼女に苛立ちを覚えて、自ら動くことにした。


「ええと、じゃあ……竿本さんは釣りが好きでいつも三号室に入っているって感じですか?」

「そうだね……お客さんがその話を聞いて、入りたいって言うのであれば譲るけど。そうでなきゃ……」


 話しながらダイニングから外に出る。その先にあったのは丸の線の形になっている通路だった。円形に部屋が配置されている。一から十までが番号の順番で配置されており、最後に十号室と一号室が隣の関係にある状態だった。

 回転寿司館の常識から離れた建物の形に驚きを感じながら、竿本さんの後を追っていく。

 部屋を見せてもらうため、だ。

 彼女も僕の行動を見て、十号室に入ろうとした足を止め、こちらにやってきた。


「そうだそうだ。脅迫状が来てるんだから……一応、調べとかないと、ですね……ちょっと社長さん、お邪魔しますよー!」

「まぁ、見てくれ。変なものはないから……な」


 カードキーをノブの下にある画面にタッチさせて、入れるようになる。僕が観察していると、先に部屋に入った竿本さんから案内があった。


「おおい、十秒でしまっちゃうから早く……! って言っても、まぁ、こっちからは鍵を捻ればいいだけなんだけど」

「あっ、はい!」


 僕と宮和探偵がすぐに入っていく。そして、宮和探偵が真っ先に出てくれた。女子を盾にするのは悪いと僕が前に出ようとするも、彼女は一向として前を譲らない。


「ほらほら、あたしが先に行くよ。あたし、目の良さは自慢だから、さ。怪しいものがあったら、どんどん見つけちゃうよ!」

「そういや、そんな設定あったなぁ」

「氷河くん!? 設定とか言わない! 得意技って言って!」


 一時笑いに包まれる僕達一向。通路を歩き、二度目のドアを開けたそこには不思議な光景が広がっていた。

 手前はありきたりなホテルのような一室。ベッドがあり、その横にトイレや風呂場がありそうな小さな扉がある。その近くにはクローゼットらしき引き戸もある。

 そこだけなら普通だろう。

 聞かされてはいたものの、圧巻だ。何たって、僕達から見て奥の場所。窓側にはカウンターがあるのだ。その向こうに回転寿司と全く同じレーンが敷かれ、既に様々なネタが流されているのだから。

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