Ep.6 目まぐるしい人間関係
宮和探偵が信さんに対し、再度質問をする。
「で、で、どんな人が来るんですか? 今回の会合となると重役の人達ばかりって感じですよね……いろんな店の店長とか集まるんですか?」
彼はすぐ違うと答えていく。
「今回の会合は社長と俺とエリアマネージャーの人達だからね。あの二人が来るんだよ。ほら、咲穂は知ってるだろ? 浅場さんと深瀬くんのこと」
「あー、あの二人ね。会うと口喧嘩ばっかしてない? それなのに良く、一緒の場所に連れてくるねー」
「新しい店を出すのに協力してもらわないとね。社内の中でもトップの業績の二人が必要なんだよ」
「そっかぁ……!」
僕は出てきた二人の存在が社長の命を狙う心当たりがあるのか確認してみることにした。
「エリアマネージャーが社長を襲う何か理由とかはあるんですか?」
信さんが黙っていると、先に宮和探偵が推測を口にした。
「こういうのってよくあるのが、まぁ、信さんもそうなんだけど……上の立場の人がいなくなれば自分が得をできるからってことなのかしら?」
鳥山さんが「それはないんじゃ……」と口に出す。僕もそう思った。首を横に振って、否定させてもらう。
「それだったら脅迫状は出さないはずだ。今回の場合の脅迫状、どう考えても差出人が限られているし……昇進のための殺人をするためなら、別の場所で脅迫状を出さずやった方がいいと思う」
すぐに僕の後に咲穂さんが楽しそうに反応した。
「そーそー! その方が通り魔か、逆恨みかって思われるだろーし! わざわざ容疑者が絞られるような真似はしないでしょ!」
宮和探偵は一旦「そ、そーだったね」と目を点にして、相槌を打っていた。探偵という肩書をもってして、ここにいるほぼ全員に否定されるとは思っていなかったのだろう。
たぶんはしゃぎすぎで、普通の推理すらできてやいない。そんな彼女が僕は心配で心配でたまらない。できることなら、降ろしたい。と言っても、高速道路で降ろすのはあまりにも鬼畜の所業。彼女の推理ミスをスルーして、新たな推理を組み立てていくしかなかった。
「僕が考えるに、脅迫状を出すってことは何か思い出してほしいことがあるのかも。それを見て、あっ、あの時のとなってくれれば、犯人にとっては相手に屈辱だとか色々味合わせることができるから」
僕は一呼吸してから信さんに尋ねてみた。「それを踏まえて、その二人と社長とのトラブルはなかったんですか?」と。
「ううん、怪しいことと言えば一度浅場さんが企業スパイではないかと疑われたことがあったね……そのことかなぁ。結局、そうではなかったものの随分仲間うちで恥を掻かされたらしいからね」
鳥山さんが「そんなことで殺そうとするの……?」と疑問に持つ。そこに気を取り直した宮和探偵が正しいと思われる話を口にした。
「別に殺すと書かれていたとしても、実際殺すとは思っていない脅迫犯も多く見てきたから……というか、その人達の誰も誰もが本当に殺すつもりはなかった……ただ軽い気持ちで書いてたって言うのがあったなぁ」
爆破予告に関しても同じだ。爆破予告をネットでお手軽にできてしまう、このご時世。ニュースを見れば誰だって知っている。犯人達も「本当にやろうとは思っていなかった。誰かを驚かせてやりたかった。見返してやりたかった」などまるで口裏を合わせたかのように言ってきてるのだ。
軽い気持ちでやったことが大事になってしまった。あるあるな話だ。
浅場さんの恨みは分かったものの、深瀬さんに対して信さんから特にコメントは入れられなかった。どうやらそちらは普通に社長と仲が良好であるらしい。
そこに咲穂さんが口元に手を当てて、ちゃちゃを入れる。
「パパは何も言わなかったけど……あの人、社長やパパにおべっか使うのうまいからね。本心、何を思っているのか分からないなぁ」
というと、信さんがペシリと娘の膝を叩いていた。
「勝手な憶測はやめなさい」
「はーい」
娘が不貞腐れたような声を出しているのを聞いてから、信さんは新たな登場人物を紹介してくれた。
「で、社長の秘書の
「あの陰キャが?」
「だからそういうのはやめなさい」
「は、はーい……」
咲穂さんが全く喋らなくなったのを確認してからか、彼は紹介をする。
「まぁ、彼女は色々社長のことで苦労したからね……。一応社長は独身だが、秘書は夫も息子もいるというのに……勝手な不倫関係を社内や別の場所で噂されてね……社長自体はそこまで悪くないとは思うが……社長の『いやぁ……まぁ、それは……』とかってなんだか煮え切らない態度で答えたような態度が原因じゃないかって言わずとも、恨んでいる可能性はあるからな」
僕は意識せず復唱していた。
「煮え切らない態度……? 社長は逆にどういう人なんですかね?」
そして社長のことを知ろうとする質問をしていた。
「何だろう。仕事に関しては優柔不断なところはないんだが。プライベートだと、晩御飯を何にするかも自分では決められないような人でね……そういうスキャンダルでもすぐにそれは違う、これはそうって決められない人でね……こっちとしてはまぁ、可愛い人だってのはあるけどね……」
可愛い人か。
ホームページで彼の名前と顔を今一度チェックする。
顔が上下に伸びていることが印象に残る眼鏡を掛けた白髪交じりの男の人だ。歳を取ったおじさんが可愛いと思うことに対し、僕はコメントを残しはしなかった。
宮和探偵は「確かにこのおじさんがそんな風だったら、可愛いかなぁ」なんて言っているが。
この人のことをもっと聞こうか。そう思っているうちに咲穂さんが窓を開けて声を出した。
「あっ、見てみて! いつの間にか森の中! もうすぐだよー!」
気付けば高速道路ではなく、自然の中を走っていた。高速道路に乗ったことも降りたことも気付かない程、僕は考えることに集中していたみたいだ。
整備されていない道路だからか、結構車が揺れている。宮和探偵は平気そうだが。鳥山さんは口に手を抑えていた。
「だ、大丈夫?」
気付いた僕が声を掛けるも、すぐ青い顔で「大丈夫」と笑顔で一言だけ。
もう少し外の景色を見ようと思い、眺めてみる。まだ雨は降らないものの、陰鬱な雰囲気が外に渦巻いているような。
体が自然とぶるっと震えたのは寒い空気が車内に入ってきたから、なのだろう。
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